ライセンス契約及び共同研究契約と独占禁止法との関連について-その(2)

  • 前回に続いて今度は、ライセンシー側の立場からみて、ライセンサーより、下記のような要求がなされた場合には、いずれも不公正な取引方法(又は優越的地位の濫用)に該当する恐れがあるとしてその要求にクレームをつけることができます。ただし、ライセンサー側からの条件にも述べましたように、下記拘束条件でも全てが不当な取引制限とはなりませんので、まず、下記のような場合には要注意であり、ライセンサーからの要求のバックグランドをチェックすることを忘れないようにしましょう。

ライセンシー側の立場からみて
1)不公正な取引方法又は優越的地位の濫用とみられる制限等
 一定の製品の製造数量等による実施料支払義務
  ライセンサーがライセンシーに対して、契約特許を使用しているかどうかに拘らず、ライセンシーの特許製品又は特許製品でない一定の製品の製造数量又は販売数量等に基づいて実施料の支払義務を課す場合は不公正な取引方法に該当する恐れ(一般指定11項-排他的条件付取引、又は、一般指定12項-拘束条件付取引)があるので、このような要求を受けた場合には要注意とみていいでしょう。

 特許権消滅後等における使用制限又は実施料支払義務
  ライセンサーがライセンシーに対して、特許権が消滅後も当該技術の使用を制限し、又は、当該技術の実施に対して実施料の支払義務を課すことは、ライセンシーが自由に当該技術を使用して製品市場又は技術市場において事業活動を行うことを制限し、同市場における競争原理に影響を及ぼす恐れありと考えられます(一般指定12項-拘束条件付取引)。ノウハウの場合も同じく、契約対象ノウハウが公知となった後でも当該技術の仕様を制限し、又は、当該技術の実施に対して実施料の支払義務を課すことについても上記と同じと考えられます。

 一括ライセンス
   ライセンサーがライセンシーに対して、複数の特許等について一括してライセンスを受ける義務を課す(ライセンシーが希望する特許以外にも契約の対象とし、更に、これらの複数ライセンスのために対価条件等が過酷になっている場合には要注意)ことは、ライセンシーに対して技術の選択の自由が制限されるため不当な取引方法に該当し、違法となる恐れがあります(一般指定10項-抱き合わせ販売等)。

 不争義務
  ライセンサーがライセンシーに対して、ライセンスされた特許権の有効性について争わない義務を課すことは、本来特許を受けられない技術について特許権が存続し続けることにより、市場における競争秩序に悪影響を及ぼす恐れがある場合には、不公正な取引方法に該当します(一般指定12項-拘束条件付取引)。ノウハウライセンスにおいても、ライセンシーに対象ノウハウが公知かどうかについて争わない義務を課す場合も同様と考えられます。

 研究開発活動の制限
  ライセンサーがライセンシーに対して、契約対象特許又は競争技術についてライセンシーが自ら又は第三者と共同して研究開発を行うことを制限した場合には、ライセンシーにとって重要な競争手段である研究開発に係る事業活動を制限するものであり、将来にわたって製品市場又は技術市場におけるライセンシーの事業活動を制約し、長期的に同市場における競争秩序に悪影響を及ぼすため、合理的な制限とは認められず、不公正な取引方法に該当し違法となります(一般指定12項-拘束条件付取引)

 改良発明等に関する義務
(1)改良発明等の譲渡・独占的ライセンス義務
 ライセンシーに対して、改良発明、応用発明等についてライセンサーにその権利自体を帰属させる義務又は独占的ライセンスをするように義務を課した場合には、ライセンサーが特許製品又は当該特許に係る技術の分野における有力な地位を強化することにつながること、又はライセンシーの取得した知識、経験や改良発明等を自ら使用し、若しくは第三者にライセンスをすることが制限されることによってライセンシーの研究開発の意欲を損ない、新たな技術の開発を阻害することにより、市場における競争秩序に悪影響を及ぼす恐れがあると考えられます。従って、これらの義務を課すことは不公正な取引方法に該当します(一般指定12項-拘束条件付取引)
(2)条件制限付の非独占的ライセンス義務
 改良発明等の非独占ライセンスを義務付けることは違法ではないですが、ライセンサーが、ライセンシーによる改良発明、応用発明等について第三者にライセンスをすることを制限する条件付で非独占的ライセンスをする義務を課した場合には問題となります。この場合、ライセンシーの研究開発意欲を損ない、新たな技術の開発を阻害することになり、市場における競争秩序に悪影響を及ぼす恐れがあるため、不公正な取引方法に該当します(一般指定12項-拘束条件付取引)。
 一方的解約条件
  ライセンシーの契約履行不能、義務違反等の合理的な事由による解約ではなくて、ライセンシーが正当に義務を履行しているにも拘らず、一方的に又は適当な猶予期間を与えることなく直ちに契約を解除し得る旨規定された場合には、問題と考えていいでしょう。その場合には、当該一方的解除が、以上述べてきた制限等の実効性を確保する手段となっていたり、実効性を確保する効果を有している場合には、不公正な取引方法として検討する必要があります(一般指定11項-排他的条件付取引および12項-拘束条件付取引)。

 特許製品の製造数量又は使用回数の制限
  特許製品の最低数量ではなく、最高製造数量又は方法の特許の最高使用回数を制限することは、その制限の目的、態様や市場における競争秩序に及ぼす影響に照らして、個別の公正競争阻害性を判断し、当該市場において需給調整効果が生じる場合には、不公正な取引方法に該当します(一般指定12項-拘束条件付取引)。

 契約終了後の競争品の製造、使用等又は競争技術の採用の制限
   契約期間中においても、競争品の製造、使用等又は競争技術の採用の制限を課された場合には、不公正な取引方法に該当する恐れがありますので、まず、 市場における悪影響(競争秩序の阻害)があるか否かの検討を要し、あるとずれば、不公正取引方法であると主張することができます(一般指定11項-排他条件付取引および12項-拘束条件付取引)。

 原材料、部品等の購入先の制限
   契約対象技術の効用を保証する、商標等の信用を保持するという正当な理由がある場合を除いて原材料や部品等の購入先を制限された場合には、市場における競争秩序に悪影響を及ぼす恐れがありということで、不公正な取引方法に該当します(一般指定10項-抱き合わせ販売等および11項-排他条件付取引および12項-拘束条件付取引)。

 特許製品、原材料、部品等の品質の制限
  上記と同じように、契約対象技術の効用を保証する、商標等の信用を保持するという正当な理由なく、特許製品、原材料、部品等の品質を制限された場合には、不公正な取引方法に該当する恐れがありますので、市場における競争秩序に悪影響がないかどうかを検討することが必要となります(一般指定11項-排他条件付取引および12項-拘束条件付取引)。

 特許製品の価格制限および再販売価格制限
  ライセンシーに対して、特許製品の価格を制限したり、再販価格を制限することを要求した場合には、ライセンシーの価格決定の自由並びに卸売業者や小売業者の価格決定の自由を制限することになりますので、不公正な取引方法に該当するといっていいでしょう(一般指定12項-拘束条件付取引)。

 商標等の使用義務
  ライセンシーに対して、特許製品についてライセンサーが指定する商標等を使用する義務を課した場合には、特許のライセンスに併せて商標等についても自己又は自己の指定するものからライセンスを受けるように強制することによって、ライセンシーの商標等の選択の自由が制限され、市場における競争秩序に悪影響を及ぼす恐れがある場合には不公正な取引方法に該当します(一般指定10項-抱き合わせ販売等および12項-拘束条件付取引)。

  (この章続く)

 

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