【欧州】欧州特許庁(EPO)、審査ガイドライン改訂

2024年03月

2024年3月1日付けで、EPO改訂審査ガイドラインが施行されました。今回の主な改訂事項としては、拡大審判部のG2/21(出願日後に提出された進歩性・技術的効果を裏付ける証拠)およびG1/22(優先権)等の最近の拡大審判部審決、人工知能(AI)分野における特許出願についての開示要件および発明者要件、ならびに欧州単一効特許に関する説明および欧州統一特許裁判所に係属中の事件における異議申立手続の迅速化に関する事項の追加等が挙げられます。
主な改訂事項は具体的には以下の通りです。

1.優先権 (A-III-6.1)
拡大審判部審決G1/22及びG2/22を反映し、EPC第88条(1)および規則52に従って優先権を主張する出願人または共願人には、優先権を有するとの反証可能な強い推定が働くこととし、優先権に疑義があると審査部または異議申立人等が主張するのであれば、当該主張を行う者自身が、優先権が無いことを立証しなければならないことが明記されました(立証責任の転換)。

2.進歩性及び証拠の評価(E-IV-4.1, G-VII-5.2, G-VII-11)
拡大審判部審決G2/21を反映し、審査部・異議部等の担当部門は、申立てられた事実が証拠に基づいて十分に立証されているか否かを、自らの裁量と判断によって評価する権原と義務がある(すなわち、自由心証主義に依るべきこと)ことが明記されました(E-IV-4.1)。
更に、同審決を反映して、以下の二点についても明記されました。
(1)進歩性主張時において、出願当初の出願には記載されていなかった新たな効果に依拠できるのは、技術常識を有する当業者が出願当初の出願に基づいて、技術的教示に包含され、かつ当初に開示された同一の発明により具現化されるものとして、その新たな効果を導き出すことができる場合に限られる(G-VII-5.2)。
(2)進歩性評価において考慮されることを期待して、そのような新たな効果を証明する目的で提出された証拠は、上述の自由心証主義に基づき検討され、出願公表後に提出されたという理由だけでは無視できない(G-VII-11)。

3.AI発明(F-III-3、G-II-3.3.1)
AI発明のアルゴリズムに起因する技術的効果の評価が明確化され、G-Ⅱ-3.3.1の「人工知能及び機械学習」に以下の記載が追加されました。
「機械学習アルゴリズムが達成する技術的効果は、説明、数学的証明、実験データなどによって容易に明らかになるか、または立証される。単なる主張では十分ではないが、包括的な証明までは必要ない。技術的効果が、使用される学習データセットの特定の特徴に依存する場合、技術的効果を再現するために必要な特徴は、当業者が一般的な知識を用いて過度の負担なく特定できる場合を除き、開示されなければならない。しかし、一般的には、特定の学習データセットそのものを開示する必要はない」

これにより、技術的効果を再現するために必要な学習データセットの特徴は、基本的には出願時に開示されなければならないことが明確になりました。但し、これらの特徴が、当業者によって、過度の負担なく、一般的な知識を用いて導き出すことができる場合は、開示の必要はありません(F-III-3、G-II-3.3.1)。

改訂審査ガイドラインの全文は、以下のURLからご覧いただけます。
https://www.epo.org/en/legal/guidelines-epc

また、変更点のリストは以下のURLからご覧いただけます。
https://link.epo.org/web/legal/guidelines-epc/en-epo-guidelines-for-examination-2024-pre-publication-updates.pdf