【米国】USPTO、意匠出願の審査ガイダンスを更新

2024年07月NEW

2024年5月22日、米国特許商標庁(USPTO)は、LKQ Corp. v. GM Global Technology Operations LLC事件の連邦巡回控訴裁(CAFC)の大法廷判決を受け、意匠の自明性について、新しい審査方針を示す覚書(Memorandum)を公表しました。
https://www.uspto.gov/sites/default/files/documents/updated_obviousness_determination_designs_22may2024.pdf

1. Rosen-Durlingテストの否定
CAFC大法廷判決は、意匠の自明性を判断するにあたり長年用いられてきたRosen-Durlingテストについて、米国特許法第103条、及び最高裁判所が示した先例(Graham判決(1966年)及びKSR判決(2007年))に鑑み、不必要に硬直的であり、採用するべきでないと判示しました。
Rosen-Durlingテストとは次の2つの要件からなる基準です。①クレームされた意匠と「基本的に同一」な意匠的特徴を有する主引例があること。②主引例がある場合、主引例に欠落している意匠的特徴を有する副引例があること。ここで、副引例には、その意匠的特徴を主引例に適用することが自然に示唆されるような、主引例との「密接な関連性」が求められます。
Rosen-Durlingテストでは、クレームされた意匠と「基本的に同一」の先行意匠がない場合、たとえ複数の先行意匠を組合せることでクレームされた意匠に到達できたとしても、自明性欠如による拒絶や無効化が認められない点で、厳格であり柔軟性に欠けると言えます。

2.Grahamテストの採用
CAFCは、意匠の自明性の判断にあたり、特許と同様の柔軟なアプローチをとるべきとし、KSR最高裁判決でも再確認されたGrahamテストの採用を明示しました。
Grahamテストによる自明性の判断基準は、次の4つの要素からなります。
①先行技術の範囲及び内容の確認、②先行技術とクレームに係る発明の差異の確認、③当業者のレベルの理解、④客観的証拠(市場での成功、長年望まれた必要性等)の考慮。

要素①において、「基本的に同一」の要件はありません。但し、後知恵による考察を防ぐため、引例となる意匠はクレームされた意匠と類似分野に属することが必要です。CAFCは、この点、クレームされた意匠に最も視覚的に類似している先行意匠が主引例となる可能性が高いが、通常の技術を有するデザイナーが参照する動機付けがあるような類似技術に属する限り、クレーム意匠と「基本的に同一」である必要はないとしています。
要素②について、CAFCは、クレームされた意匠の視覚的外観は、製品の分野における通常のデザイナーの視点から先行技術と比較されるとしています。尚、類似性の閾値要件はありません。
要素③に関して、CAFCは、意匠における当業者とはクレームされた意匠に関連する分野の通常のデザイナーとするとしています。
要素④に関して、CAFCは、市場での成功、長年望まれた必要性、他者の失敗などの二次的考察を、そのような証拠が提示された場合には、意匠出願の自明性判断においても考慮し得るとしています。但し、具体的な事例については、今後の判例に委ねるとしています。

3.今後の影響
覚書に示された新しい審査方針に則って、今後、意匠出願の自明性の判断において、審査官は柔軟なアプローチをとることが可能となります。その結果、先行意匠の組合せについて、より広範な調査が行われることで、自明性欠如の拒絶理由が増加することが予想されます。これに対応するためには、出願人は、出願前に、クレームされた意匠の製品分野だけでなく、関連する他の分野の先行意匠も調査する必要があります。また、自明性欠如の拒絶理由や無効審判等への対応も、新しい審査方針に則った戦略が必要となります。
さらに、覚書の内容を理解することにより、他社の登録意匠に対して、無効審判の請求等の対抗処置をとることが可能となります。

尚、USPTOは、2024年2月27日に、米国特許法第103条に基づく自明性の判断のための審査ガイドラインを更新し、柔軟なアプローチを強調しています。
詳細につきましては、弊所知財トピックス2024年4月掲載分をご参照ください。
https://www.saegusa-pat.co.jp/topics/14949/

LKQ Corp. v. GM Global Technology Operations LLC事件の判決文全文は、以下URLから入手できます。
https://cafc.uscourts.gov/opinions-orders/21-2348.OPINION.5-21-2024_2321050.pdf