【米国】CAFC、ジェネリック医薬品の誘引侵害に関する判決

2024年08月NEW

2024年6月25日、米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、Amarin Pharma, Inc. v. Hikma Pharmaceuticals USA Inc.事件において、スキニーラベルを用いたジェネリック医薬品の誘引侵害 (induced infringement) に関する判決を下しました。
スキニーラベルとは、ジェネリック医薬品メーカー等が、先発医薬品で承認されている適応症のすべてではなく、(先発医薬品の特許で保護された適応症を除いた)一部の適応症でFDAの承認を求めることを言います。

事件の背景
Amarin社は心血管疾患(心筋梗塞等)の発症又は致死リスクを軽減するためにイコサペント酸エチルを投与する方法に関する2件の特許を有しています(U.S. Patent No.9,700,537及びNo.10,568,861)。イコサペント酸エチルはAmarin社の製品であるVASCEPA®の有効成分です。
①2012年、Amarin社はVASCEPA®について、重度高トリグリセリド血症(SH適応症)の治療薬としてFDAの承認を得ました。しかし、Amarin社のSH適応症に関する特許は、Hikma社との訴訟により無効とされました。
②2019年、Amarin社は、心血管疾患(CV適応症)のリスクを軽減する治療薬としてFDAから新たな承認を取得し、オレンジブックに上記2件の特許が掲載されました。
③Hikma 社は、イコサペント酸エチルのジェネリック医薬品について、Amarin社の特許が無効となったSH適応症のみを対象とし、いわゆるスキニーラベルでFDAの承認を受けました。
④Hikma社の発売前のプレスリリースは、SH適応症のみで承認を受けたことを明示せず、自社製品を「VASCEPA®のジェネリック版」と紹介していました。
そして、Hikma社製品のラベルには、CV適応症は含まれていませんでしたが、CV適応症への使用を積極的に抑制する記載もなく、単に心血管疾患の患者が使用した際に生じ得る副作用が記載されていました。

Amarin社は、Hikma社のこれらの行為がAmarin社特許の誘引侵害に当たるとして、デラウェア州連邦地方裁判所に出訴しましたが、主張が認められず、これを不服とし、CAFCに上訴していました。

CAFCの判決
CAFCは、Hikma社のスキニーラベルだけでは誘引侵害を証明するのに十分でないが、プレスリリース、マーケティング資料、ウェブサイトの内容等、他の証拠を組み合わせて総合的に考慮することで、誘引侵害を証明し得るとし(ラベル・プラス・アプローチ)、本件を地裁に差戻しました。
特に、CAFCは、Hikma社製品のラベルにCV適応症を除外する記載がなかったこと、VASCEPA®の総売上に占めるCV適応症用途での割合が大きいことを知っていながらプレスリリースにVASCEPA®の売上高を掲載し、Hikma社製品を「VASCEPA®のジェネリック版」と称したこと、ウェブサイトにて、この製品が「高トリグリセリド血症」という広いカテゴリーに分類されていること等を挙げています。
これらの事実から、Hikma社には、同社のジェネリック医薬品をAmarin社の特許に係るCV適応症に対して処方するよう医師に促す可能性があると判断しました。

判決文全文につきましては、以下URLをご参照ください。
https://cafc.uscourts.gov/opinions-orders/23-1169.OPINION.6-25-2024_2339226.pdf