【米国】P3プログラムの試行開始
2016年09月
米国特許商標庁(USPTO)は、Final Rejection後に利用できる新しい試みとして、Post-Prosecution Pilot Program (P3)の試行を、2016年7月11日に開始しました。
現在、Final Rejection後の手続きの選択肢としてPre-Appeal Brief Conference Pilot Program (以下、「Pre-Appeal program」という:注1)及びAfter Final Consideration Pilot Program 2.0 (以下、「AFCP 2.0」という:注2)が利用可能です。
P3は、Pre-Appeal programの特徴(特に、Final Rejectionに対する応答書を審査官合議体が検討)と、AFCP 2.0の特徴(特に、審査官に対し補正案の提示が可能)とを組み合わせるとともに、審査官合議体に対して出願人が口頭説明できるという新しい特徴を持っています。
本プログラムは、審判請求の数や審判で審理される争点を減らすこと及びRCEの数を減らすことにより、Final Rejection後の手続きを簡素化することをも目的としています。
1.対象
米国特許法第111 条(a)に基づき出願された通常特許出願(継続出願、分割出願を含む)又は371 条に基づき出願されたPCT米国国内段階出願であって、Final Rejectionを受けた出願が対象となります。再発行特許出願、意匠特許出願、植物特許出願、再審査手続きは、対象となりません。
同一のFinal Rejectionに対して、AFCP 2.0又はPre-Appeal programの申請書を既に提出している場合は、P3申請は認められません。また、一旦P3申請が認められると、同一のFinal Rejectionに対して、Pre-Appeal programの申請及びAFCP 2.0の申請は受理されません。
2.申請可能な時期
Final Rejectionの発送日から2月以内であって審判請求書の提出前
3.必要な書類等
(1) P3申請書
米国特許庁は、P3申請書としてTransmittal form PTO/SB/444(下記のサイト参照)を用いることを推奨しています。
http://www.uspto.gov/sites/default/files/documents/sb0444.pdf
(2) Final Rejectionに対する応答書
クレーム補正案を除いて5頁以内という制限があります。宣誓供述書も一定条件下で提出可能ですが、上記5頁の制限にカウントされます。
(3) 審査官合議体との協議をすることについての同意
(4) クレーム補正案 (希望する場合のみ)
但し、クレームの範囲を拡張する補正は認められません。
(5) なお、P3申請に対する米国特許庁料金は無料です。
4. P3の進行手順
(1) 審査官合議体の形成
申請要件を満たすと認定された場合、審理対象の案件にふさわしい審査官合議体 (例えば、Final Rejectionを担当したExaminer、SPE (Supervisory Patent Examiner)及びPrimary Examinerの3名)が形成されます。
(2) 協議の日程調整
USPTO は、出願人(又は出願人の代理人)に連絡をとり、審査官合議体と出願人との協議の日程を決定します。最初にUSPTOから連絡があった日から10日以内に、出願人が協議の日程調整ができない場合又は協議を拒否した場合、P3 申請は却下されます。
(3) 協議
協議は、対面、電話又はテレビ会議で行われます。協議において、20分間の口頭でのプレゼンテーションが認められ、審査官の誤解、引例との違い、補正クレーム案の特許性等を直接説明することができます。プレゼンテーションの資料(パワーポイント等)を事前に提出することも可能です(この資料は5頁の制限内に含まれません)。
(4) 決定通知
書面にて、審査官合議体の決定通知がなされます。
5. 決定通知の内容は、以下のいずれかです。
(1) Final Rejectionの維持(final rejection upheld)
この場合、拒絶維持の理由が示されます。また、補正クレーム案が提出されていた場合、補正後のクレームが審判での審理にふさわしいか否かについてのステータス(entered/not entered)が示されます。
出願の放棄擬制を回避するためには、審判請求又は継続審査請求(RCE)等の手続きをしなければなりません。その期限は、Final Rejectionに記載の期限日又は審査官合議体の決定通知の日のいずれか遅い方であり、それ以降は、期限延長が必要です。なお、P3申請をしても法定応答期間は変わりませんので、final rejectionから6ヶ月以内の応答が必要です。
(2) 特許査定(allowable application)
決定通知にrejectionが取下げられた旨記載され、決定通知と共にNotice of Allowanceが送付されます。
(3) 審査の再開(reopen prosecution)
決定通知において、Final Rejectionは取下げられ、新たなオフィス・アクションが通知される旨記載されます。出願人は、更なる通知を待つことになります。
6. 以下の場合、P3の審理は、審査官合議体の決定なしに、終了します。
P3申請後、審査官合議体の決定の前に、Notice of Appeal、RCE、放棄書、インターフェアランス宣言の請求又はderivation proceedingの開始の申請書を提出した場合。
7.試行期間
P3の試行期間は、2016年7月11日から2017年1月12日までです。
但し、申請の受理件数が1600件に達した場合は、この期間内であっても終了します。また、8つの審査部(Technology Center)それぞれの申請受理件数の上限は200件と定められています。申請受理件数はUSPTOのホームページ内のCounter by Technology Centerで確認することができます。
http://www.uspto.gov/patent/initiatives/post-prosecution-pilot
8.コメント
USPTOによると、P3プログラムでは、補正内容が広範である場合又は補正クレーム数が多い場合よりも、争点を絞って一つの独立クレームに係る補正だけを行う場合の方が特許査定につながり易い、と説明されています。
Pre-Appeal programとは違い、P3プログラムでは、拒絶が維持された場合でもその理由が示され、いくつかの拒絶理由が取り下げられた場合はその旨が示され、また、補正がエンターされるかどうかも示されるので、その後の対応の参考とできます。
また、AFCP 2.0と比べると、P3プログラムでは、SPEを含めた合議体が関与するので、担当審査官の誤解等に基づくFinal Rejection への対応としてより有効であると思われます。さらに、P3プログラムでは、20分の口頭でのプレゼンテーションの機会が必ず与えられますので、審査官の誤解、引例との違い、補正クレームの特許性等を直接説明できることが確約されている点がメリットとしてあげられます。
但し、20分のプレゼンテーションを効果的に利用するため、十分な事前準備が必要であること及び現地代理人の費用が発生することにご留意下さい。
注1:Pre-Appeal programは、2005年7月12日に開始されたプログラムであり、審判請求書の提出と同時に、本プログラムの申請書及び5頁以内の意見書を提出すると、審判手続における理由補充書の提出前に、最終拒絶理由の法的根拠及び事実認定根拠が、審査官の合議体により再検討されます。
審査官の合議体が審判手続不要(つまり、審査官の審査に戻すべき、又は、特許すべき)と判断した場合、審判請求理由補充書を作成するための時間と費用を節減できます。しかし、審判手続きを維持すべきと判断された場合は、審判請求人は審判理由補充書を提出することになります。
このパイロットプログラムは、試行期間が延長されて現時点(2016年9月)でも利用可能です。
注2:AFCP 2.0とは、2013年5月19日に開始されたプログラムであり、RCEの数を減らし、出願の係属期間を短縮することを目的としています。
このプログラムを利用する場合、特許出願人は、Final Rejectionに対する応答書(少なくとも1つの独立クレームについての非拡大補正を含むこと)を提出すると共にAFCP 2.0の申請をすることが必要です。
審査官が、所定時間(3時間)以内に当該補正後のクレームを審査できると判断し、補正の結果全クレームが特許性を有するものになったと判断された場合、当該補正がRCE(継続審査請求)をすることなく認められ、特許されます。
審査官が、補正後のクレームに特許性がないと判断した場合は、インタビューが実施されます。インタビューの結果、特許性が認められると、補正が認められ、特許されます。しかし、特許性が認められないと、Advisory Actionが通知され、出願人はRCE又は審判請求等の対応をすることになります。
このパイロットプログラムは、2016年9月30日まで試行期間が延長されています。
P3プログラムの詳細は以下のサイトでご覧になれます。https://www.gpo.gov/fdsys/pkg/FR-2016-07-11/pdf/2016-16423.pdf
以下に、Pre-Appeal program、AFCP 2.0及びP3の対比をまとめましたので、ご参照下さい。
表. Pre-Appeal program、AFCP 2.0及びP3の対比
| Pre-Appeal | AFCP 2.0 | P3 |
実施期間 | 2005年7月12日~終期未定 | 2013年5月19日~ 2016年9月30日 | 2016年7月11日~ 2017年1月12日 但し、申請受理総数1600件(各審査部200件)まで |
プログラム概要 | 審判請求と同時に申請書と5頁以内の意見書を提出すると、理由補充書の提出前に、Final Rejectionの法的根拠及び事実認定根拠が、審査官の合議体により再検討される | ・Final Rejectionに対して、少なくとも1つの独立クレームの非拡大補正を含む応答書を提出する ・審査官が3時間以内に審査できると、RCEなしに補正が認められる | ・Final Rejectionから一定期間内に申請書、5頁以内の意見書及び(必要な場合)クレーム補正案を提出する ・審査官の合議体が形成され、出願人は、審査官の合議体に口頭説明できる |
申請可能な時期 | 審判請求と同時 | Final Rejection応答時(延長期間中も可) | Final Rejection発送日から2ヶ月以内 |
補正(案) | 基本、提出不可 | 必要(少なくとも1つの独立項の非拡大補正であること。但し、3時間以内に審査できる内容に限られる) | 可能(ただし、審査に時間のかかるものは受理されない可能性有) |
意見書等のページ数制限 | 5頁以内 | なし | 5頁以内(補正クレームは含まれない) |
協議、 合議等 | ・審査官合議体による合議のみ ・出願人との面談なし | ・審査官合議体は形成されない ・AFCP 2.0申請受理後、審査官による検討の結果、特許性が認められない場合、審査官が出願人とインタビューで協議 | ・審査官合議体と出願人で協議 ・出願人が合議体にプレゼンテーション(20分以内) |
結果の 通知
| 申請書の提出から45日以内に合議結果通知 検討内容の説明なし(該当項目のチェックのみ) 1.Appealにおいてより詳細に争うべきである 2.担当審査官に戻され再審査 3.現状のクレームで許可 4.形式不備による Pre-Appeal申請却下 | 書面による検討内容の説明がある場合がある(Advisory Action 及び/又はInterview Summary添付時) | 検討結果と、その理由の説明あり 1. Final Rejectionの維持 2. 特許査定 3. 審査の再開
|
効果・ 留意点 | ・審判手続不要と判断された場合、審判理由補充書を作成するための時間と費用を節減できる ・拒絶理由が、法的・事実的根拠がない場合、有効な手段となる | ・極めて理解が容易であって、先行技術の調査負担が少ない補正について有効と言われている ・実際には、AFCP 2.0申請で、補正が認められる範囲は狭く、拒絶理由を解消するのは難しいことが多い | ・争点を絞った、一つの独立クレームに係る補正に焦点を絞ると有効である ・拒絶が維持された場合でも、RCE時の補正をより適切に準備できる可能性がある |