【米国】米国連邦最高裁判所判決2件、(1) IPR(Inter Partes Review : 当事者系レビュー)は合憲、(2) IPRにおいて有効性を争われたクレームは全てレヴューすべき

2018年06月

2018年4月24日、米国連邦最高裁判所はIPRに関する2つの事件、Oil States Energy Services, LLC v. Greene’s Energy Group, LLC事件 (以下、Oil States事件と略記します) 及びSAS Institute Inc. v. Iancu事件 (以下、SAS事件と略記します) の判決を下しました。

1.Oil States事件 (AIAのIPR制度は合憲と判決)
Oil States事件の判決文全文は、こちらのURLでご覧いただけます。https://www.supremecourt.gov/opinions/17pdf/16-712_87ad.pdf

(1) IPRに関する2017年までの状況
IPRは、2011年米国改正特許法(Leahy-Smith America Invents Act:AIA)により導入された、特許無効化手続の1つです。IPRの導入目的は、非常に高額な特許訴訟の代替制度を提供すること、パテントトロールに対抗すること等です。IPRは、特許訴訟と比較して低コストであり、審理期間が短く、特許の無効化率が高い等の理由により、申請件数が増加しています。
ところが、2017年にOil States社の上告で、米国特許商標庁(USPTO)の特許審判部(Patent Trial and Appeal Board:PTAB)によるIPR制度の違憲性が主張され、これが最高裁により審理されることになりました。このため、IPR制度が違憲であるとの判決が出る可能性もあり、この数十年間で最も重要な特許事件判決の一つになり得るとして、大きな注目を集めていました。

(2) 事件の背景
Oil States社の特許 (米国特許No.6,179,053) に対してIPR開始の申請が提出され、PTABは、特許は無効であるとの審決を下しました。Oil States社はこれを不服として、連邦巡回控訴裁判所(Court of Appeals for the Federal Circuit:CAFC)に控訴しましたが、CAFCもPTABの無効審決を支持しました。これを不服として、Oil States社が最高裁に上告の申立 (petition for certiorari) をしたところ、最高裁は、合憲性に関する争点について上記申立を認めました。

(3) 最高裁で審理されたOil States社の主張の概要は、以下の通りです。
私的財産権である特許の有効性は、憲法第3条で定める連邦裁判所において陪審員により審理されるべきである。行政機関であるPTABによって私的財産権である特許権を無効とすることが可能なIPRは、憲法第3条に違反し、また、陪審員裁判の権利を定めた憲法修正第7条にも違反する。

(4) 判決の要旨
最高裁は、Oil States社の主張を退けました。判示内容の概略は、次の通りです。特許権は、USPTOという行政機関が特許法の規定に基づき発明者に与える公権であり、憲法第3条の適用が除外される。また、IPRは、付与した特許を見直す制度であり、議会は、USPTOにその権限を与えている。従って、IPRは、憲法第3条及び憲法修正第7条の違反とはならない。
この最高裁判決により、IPRは合憲であることが確認され、今後も継続されることになりました。

2.SAS事件 (IPRにおいて有効性を争われたクレームは全てレヴューすべきであると判決)
SAS事件の判決文全文は、こちらのURLでご覧いただけます。https://www.supremecourt.gov/opinions/17pdf/16-969_f2qg.pdf

(1) 事件の背景
① SAS社は、ComplementSoft社のソフトウエア特許(米国特許No. 7,110,936)のクレーム1~16の全てが無効であると主張して、IPRを申請しました。しかし、PTABは一部のクレーム(クレーム1,3-10)についてのみIPRを開始し、最終審決書 (Final Written Decision) では、クレーム1,3,5-10は無効であり、クレーム4は有効であるとし、他のクレームについては検討しませんでした。
② それを不服として、SAS社はCAFCに上訴し、「米国特許法第318条(a)は、クレームの一部ではなく、申請において有効性が争われたクレーム全ての特許性について判断すべきことを要求している」旨主張しましたが、CAFCはPTABの判断を支持しました。
③ SAS社は、これを不服として、最高裁に上告の申立をしたところ、最高裁は、この申立を認め、上記争点について審理することにしました。

(2) 判決
最高裁は、一旦IPRが開始されれば、申請者が有効性を争うことを申し立てた全てのクレームについて審理しなければならず、その全てのクレームについて最終審決書を発行しなければならないと判示しました。

(3) 判決の影響
① この最高裁判決により、IPRの申請において、申し立てされた少なくとも1つのクレームが無効になるということが合理的に予想される場合は、申し立てされた全てのクレームについてレヴューを行わなければならないことになりました。そのため、IPR申請人にとって有利になると考えられています。
② SAS事件最高裁判決に照らし、USPTOは、2018年4月26日に、「SAS事件のAIA 審判手続きに与える影響についてのガイダンス:Guidance on the Impact of SAS on AIA Trial Proceedings」を公表し、当面は以下の方針を採る旨を明らかにしました。
a) PTABは、審理を開始する場合、申立てされたクレーム全てについて全ての申立理由を審理します。
b) 既に申立てられた全クレーム及び全申立理由について審理が開始されている場合は、通常通り審理が行なわれます。
c) しかし、すでに係属中の審理において、申立された全てのクレームについて審理を行っていない場合は、PTABは申立された全てのクレームについて審理を行うべく、補足審理命令 “order supplementing the institution decision” を発行します。補足審理命令が発行された場合、PTABの審判官合議体は、期間の延長、更なるブリーフィング、ディスカバリ-、口頭審理等の必要なアクションを行います。例えば、特許権者の応答書提出期限の直前に、新たなクレームの審理が追加された場合は、特許権者の応答書提出期限が合議体により延長される可能性があります。12ヶ月の法定期限の満了が近い場合は、ケース・バイ・ケースで、必要な対応策がとられます。

また、2018年4月26日付けガイダンスには、今後更なるガイダンスが提供され得ることが述べられています。

USPTOのGuidance on the Impact of SAS on AIA Trial Proceedingsは、こちらのURLでご覧いただけます。
https://www.uspto.gov/patents-application-process/patent-trial-and-appeal-board/trials/guidance-impact-sas-aia-trial