【米国】米国連邦控訴裁判所 (CAFC)、 米国特許商標庁 (USPTO) の特許期間調整 (Patent Term Adjustment: PTA) 期間の算出方法を否定する判決
2019年06月
PTAとは、USPTOの審査手続きの遅延等により特許の発行が遅れた場合、その遅延した日数分を権利存続期間として調整(延長)する制度であり、USPTOの責任による遅延(USPTO Delay)で特許期間が短くなることを防止する目的で導入されました(35 U.S.C. 154(b))。但し、出願人が審査終結のための合理的な努力をしなかった期間 (出願人の責任による遅延: Applicant Delay) についてはPTA期間から差し引かれます。つまり、PTA期間の計算は、簡単には以下の式で表すことができます。
PTA期間 = (USPTO Delay)-(Applicant Delay)
しかし、PTA期間の算出方法については、これまでいくつかの争点がありました。2019年1月23日、Supernus Pharmaceuticals, Inc. v. Iancu (CAFC, 2019) において、CAFCは、Applicant Delayとして、PTA期間から控除できるのは、「出願人が審査終結のための合理的な努力をしなかった期間に等しい期間」であるとの解釈を示しました。また、過去に同様の争点について判示したGilead v. Lee, 778 F.3d 1341 (CAFC, 2015) についての解釈も示しました。
1.USPTO Delayとは
USPTO Delayには、例えば、以下の理由で審査が遅延した期間が含まれます。
(a) 出願日又はPCT出願の米国国内移行日から14ヶ月以内にUSPTOがOffice Action (OA) 又はNotice of Allowanceを発行しなかった場合
(b) 出願人による応答から4ヶ月以内に、USPTOが応答しなかった場合
2.Applicant Delayとは
Applicant Delayには、出願人が審査終結のための合理的な努力を怠った期間、例えば、以下の理由で審査が遅延した期間が含まれます。
(a) OAに対する応答期間 (3ヶ月) を延長した場合
(b) 出願人がOA対応後に補充応答書 (Supplemental Reply) 又は他の文書 (さらなるクレーム補正やIDS等) を提出した場合
但し、対応外国出願等について外国特許庁から情報 (文献等) が引用・通知された場合でも、受領してから30日以内にIDSとして提出した場合は、Applicant Delay とはされません。
3.Gilead v. Lee, 778 F. 3d 1341 (CAFC, 2015)
Gilead ケースの概要
8,148,374特許の審査段階で、Gilead (出願人) は限定要求 (Restriction Requirement) への応答書を提出してから57日後に追加のIDSを提出しました。USPTOは限定要求への応答日から追加のIDS提出日までの期間 (57日間)をApplicant Delayであるとして、PTA期間から控除しました。GileadはCAFCに訴えを提起しましたが、USPTOの判断は正しいとの判決が下りました。
4.Supernus Pharmaceuticals, Inc. v. Iancu (CAFC, 2019)
(a) Supernusケースの概要
Supernus (出願人) が継続審査要求 (Request for Continued Examination: RCE)をUSPTOに提出してから546日後に、欧州特許庁 (EPO) から対応欧州特許に対して異議申立がされた旨の通知がされました。Supernusは、当該通知日から100日後に異議申立書及びその引用文献をIDSとしてUSPTOに提出しました。
以上を時系列に示すと以下の通りです。
i) 2011年2月22日: SupernusがRCE提出
↓ この間546日
ii) 2012年8月21日: EPOの異議申立通知
↓ この間100日
iii) 2012年11月29日: SupernusがIDS提出
USPTOは、RCE提出日からIDS提出日までの期間 (546日+100日=646日) はApplicant Delayであるとして、PTA期間から控除しました。
これに対して、Supernusは、RCE提出日から異議申立通知日までの546日は、Applicant Delayに算入すべきではないとして、訴えをバージニア州東部地区連邦地方裁判所に提起しました。
当該地方裁判所は、OA対応後に追加のIDSを提出した点において、本件はGileadケースと同じであるとして、Gileadケースの判例を踏襲し、USPTOの判断は正しいとの判決を下しました。これを不服とした、SupernusがCAFCに上訴していました。
(b) CAFCの判断
CAFCは、Applicant Delayとして、PTA期間から控除できるのは、「出願人が審査終結のための合理的な努力をしなかった期間に等しい期間」であるとの解釈を示した上で、RCE提出から異議申立通知がされるまでの期間には、Supernusが審査を進めるためにできたであろう措置 (合理的な努力) は何らなく、このような期間はApplicant Delayに含めるべきではないと判示しました。
(c) Supernus ケース中で示された、Gilead ケースについてのCAFCの解釈
一方、Gilead ケースでは、追加で提出されたIDSは、8,148,374特許と同時に係属していた2件のGileadの特許出願に関するものでした。これに対して、CAFCは、GileadはRestriction Requirementへの応答時には、当該出願の存在を知っており、IDSも提出することができたにも関わらずしなかったため、Restriction Requirementへの応答提出日から追加のIDS提出日までの57日間は、Gileadが「審査終結のための合理的な努力をしなかった期間」であり、Applicant Delayに該当するとの解釈を示しました。
Supernus ケースの判決文全文は以下のURLから入手できます。
http://www.cafc.uscourts.gov/sites/default/files/opinions-orders/17-1357.Opinion.1-23-2019.pdf
(編集者注: USPTOは2019年5月9日付け官報(Federal Register)において、Supernusケースの判示内容からみて、USPTO が算出した控除期間が、「出願人が審査終結のための合理的な努力をしなかった期間」を超えていると考える特許権者は、特許発行の日から2ヶ月以内(最大7ヶ月まで延長可)の再検討請求(request for reconsideration)期間に、その旨を説明し再検討を請求するよう、通知しました。
https://www.govinfo.gov/content/pkg/FR-2019-05-09/pdf/2019-09600.pdf)