【日本】損害額の算定方法に関する判断基準が具体的に示された知財高裁大合議判決
2019年09月
判決年月日:令和元年6月7日
事件番号:平成30年(ネ)第10063号
事件類型:特許権侵害差止等 (結論) 控訴棄却
1.事件の概要
本件は、名称を「二酸化炭素含有粘性組成物」とする発明に係る2件の特許権 (特許第4659980号、特許第4912492号)を有する被控訴人 (特許権者) が、控訴人ら(原審被告)に対し、控訴人らが製造販売する炭酸パック化粧料(被告各製品)の製造販売の差止め等、及び損害賠償金等の支払を求めた事案です。
原判決(大阪地方裁判所平成27年(ワ)第4292号)は、損害賠償請求の一部を認容したため、これを不服として、控訴人らが控訴していたものです。
2.判決内容
本判決は、被告各製品は特許発明の技術的範囲に属し、特許の無効理由が存するとは認められないとした上で、被控訴人の損害額について、控訴人らの控訴を棄却しました。
また、本判決では、特許法第102条第2項及び第3項に基づく損害額の算定方法に関して、具体的な判断基準や考慮事情等が示されました。
3.損害額の算定方法
(1) 特許法第102条第2項に基づく損害額
特許法第102条第2項は、侵害者が侵害行為によって利益を受けているときは、その「利益の額」を特許権者の損害額と「推定」すると規定しています。
但し、侵害者の側で、侵害者が得た利益の一部又は全部について、特許権者が受けた損害との相当因果関係が欠けることを主張立証した場合には、その限度で上記推定は「覆滅」されます。
これまで、「利益の額」や「推定覆滅事由」について、多くの論点がありましたが、本判決では、特許法第102条第2項で規定する「利益の額」や「推定覆滅事由」について、以下の解釈が示されました。
i) 利益の額
特許法第102条第2項所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額は、侵害者の侵害品の売上高から、侵害者において侵害品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額であり、その主張立証責任は特許権者側にあるものと解すべきである。
ii) 控除すべき経費
控除すべき経費は、侵害品の製造販売に直接関連して追加的に必要となったものをいい、例えば、侵害品についての原材料費、仕入費用、運送費等がこれに当たる。これに対し、例えば、管理部門の人件費や交通・通信費等は、通常、侵害品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費には当たらない。
iii) 推定覆滅事由について
特許法第102条第2項における推定の覆滅については、侵害者が主張立証責任を負うものであり、侵害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情、例えば、①特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在すること (市場の非同一性)、②市場における競合品の存在、③侵害者の営業努力 (ブランド力、宣伝広告)、④侵害品の性能 (機能、デザイン等特許発明以外の特徴) などの事情がこれに当たる。
また、特許発明が侵害品の部分のみに実施されている場合においても、推定覆滅の事情として考慮することができるが、特許発明が侵害品の部分のみに実施されていることから直ちに上記推定の覆滅が認められるのではなく、特許発明が実施されている部分の侵害品中における位置付け、当該特許発明の顧客誘引力等の事情を総合的に考慮してこれを決するのが相当である。
(2) 特許法第102条第3項に基づく損害額
特許法第102条第3項は、特許権侵害に際し、特許権者は、最低限度の請求額として、「実施料相当額」を請求できる旨規定しています。しかし、適用される実施料率について、これまで判断が分かれてきました。
本判決では、特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき実施料率は、通常の実施許諾契約における実施料率に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきであるとし、以下の解釈が示されました。
i) 実施に対し受けるべき料率は、①当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ、②当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性、③当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、④特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して、合理的な料率を定めるべきである。
ii) 本件において、①本件各特許の実際の実施許諾契約の実施料率は本件訴訟に現れていないところ、本件各特許の技術分野が属する分野の近年の統計上の平均的な実施料率が、国内企業のアンケート結果では5.3%で、司法決定では6.1%であること及び被控訴人の保有する同じ分野の特許の特許権侵害に関する解決金を売上高の10%とした事例があること、②本件発明は相応の重要性を有し、代替技術があるものではないこと、③本件発明の実施は被告各製品の売上げ及び利益に貢献するものといえること、④被控訴人と控訴人らは競業関係にあることなど、本件訴訟に現れた事情を考慮すると、特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき本件での実施に対し受けるべき料率は、10%を下回らないものと認めるのが相当である。
4.弊所コメント
本判決では、従来の判決と比較して、特許権者の利益を保護する内容となっています。また、2019年5月17日に公布された、改正特許法の趣旨にも合致するものです。
判決文全文はこちらからご覧いただけます。http://www.ip.courts.go.jp/vcms_lf/zen30ne10063.pdf