著作権法は、著作者の権利のほか、実演家、レコード製作者、放送事業者、有線放送事業者の権利につき規定しています。 著作者の権利が著作物を創作する者に対して与えられる権利であるのに対して、実演家等の権利は、著作物を人々に伝達する者に与えられる権利です。 例えば、歌手の歌唱の場合、歌手は音楽を伝達しているだけであり、歌うことによって新たな著作物を創作しているわけではありません。しかし、歌手の歌い方によって聞き手の受け取り方が異なるように、歌唱には、著作物の創作に準じる創作行為があるといえます。このことは、レコード製作者、放送事業者、有線放送事業者の場合にも、同様にあてはまります。そこで、著作権法は、これらの者にも著作権法上の権利を認め、保護を図ることにしています。 ※ 著作権法上は、実演家等の権利から、実演家人格権と報酬請求権を除いた、許諾権としての財産権を総称して「著作隣接権」と定義していますが、日常的には、「実演家等の権利」の意味で「著作隣接権」との語が用いられることも多いため、注意が必要です。 著作権は著作物を創作した時点で自動的に発生し、登録が権利の発生要件ではありません。ここが、登録することによって権利の発生する特許権や商標権等の相違点です。
著作権法2条1項3号は「実演」に関し、次のような定義規定を置いています。 【著作権法2条1項3号】 実演 著作物を、演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、又はその他の方法により演ずること(これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含む。)をいう。 [肯定例] 演奏、歌唱、演技、手品、物まね、腹話術など [否定例] サッカー、体操競技などのスポーツ
著作権法2条1項4号は「実演家」に関し、次のような定義規定を置いています。 【著作権法2条1項4号】 実演家 俳優、舞踊家、演奏家、歌手その他実演を行なう者及び実演を指揮し、又は演出する者をいう。
実演家の権利は、(1)許諾権(第三者が許諾なく利用した場合、利用の差止を請求できる)としての著作隣接権、(2)報酬・二次的使用料請求権(第三者の無断利用に対しても差止請求は不可)、(3)実演家人格権に大別されます。また、(1)ないし(3)の権利はさらに多数の支分権に分かれます。
(1)録音権・録画権 実演家は、その実演を録音し、又は録画する権利を専有することができます(著91条1項)。 例えば、実演をCDやMD、DVD等に録音、録画する場合には実演家の許諾が必要になります。 もっとも、実演家が映画の著作物に録音・録画することをいったん許諾した場合には、その映画の著作物の複製(映画のビデオ化等)については、実演家の録音・録画権は及ばなくなります(著91条2項、ワンチャンス主義)。この規定により、映画の著作物の二次利用の容易化が図られます。 ※ 放送番組の二次利用の困難性 著作権法91条2項のワンチャンス主義は、実演家が「録音」「録画」の許諾をした場合にのみ適用されます。そのため、放送番組の出演契約において、単に「放送」の許諾のみしかなされていない場合には、ワンチャンス主義の適用はなく、二次利用に際し、出演する全実演家の許諾を取り直す必要が生じます。その結果、放送番組の二次利用がしにくいという問題が生じています。 (2)放送権・有線放送権 実演家は、その実演を放送し、又は有線放送する権利を専有することができます(著92条1項)。 例えば、実演をテレビやラジオで放送したり、有線放送する場合には実演家の許諾が必要になります。もっとも、放送の有線同時送信や許諾を得て録音・録画された実演の放送・有線放送については、実演家の放送権・有線放送権は及ばないとされています(著92条2項)。ただし、商業用レコードの放送の場合には、二次利用料の支払が必要となります(著95条1項)。 (3)送信可能化権 実演家は、その実演を送信可能化する権利を専有することができます(著92条の2)。 例えば、実演をインターネットにアップロードする場合には実演家の許諾が必要になります。 もっとも、実演家が映画の著作物に録音・録画することをいったん許諾した場合には、その映画の著作物を送信可能化する行為(映画のアップロード)について、実演家の録音・録画権は及ばなくなります(著92条の2第2項、ワンチャンス主義)。この規定により、映画の著作物の二次利用の容易化が図られます。 (4) 譲渡権 実演家は、その実演をその録音物又は録画物の譲渡により公衆に提供する権利を専有することができます(著95条の2)。 例えば、実演が録音されたCDを販売する場合には実演家の許諾が必要になります。 (5) 貸与権 実演家は、発売後1年が経過するまでの間、その実演をそれが録音されている商業用レコードの貸与により公衆に提供する権利を専有することができます(著95条の3第1項)。 例えば、実演が録音されたCDをレンタルする場合には実演家の許諾が必要になります。 貸与権は商業用レコードのみに及ぶ権利であり、ビデオのレンタルについては、実演家の貸与権は問題となりません。 なお、発売後1年を経過した商業用レコードについては貸与権は及びませんが、この場合も、相当な額の報酬の支払が必要となります(著95条1項)。
(1)商業用レコードの放送・有線放送に係る二次使用料を受ける権利 実演が録音された商業用レコードが、放送や有線放送で利用された場合、実演家は、放送事業者、有線放送事業者から、二次使用料の支払いを受けることができます(著95条)。 (2) 商業用レコードの貸与に係る報酬請求権 実演が録音された商業用レコードが、発売後1年を経過した後でレンタル店で公衆に貸与された場合、実演家は、レンタル店に対し、相当な額の報酬の支払いを請求することができます(著95条の3第3項)。
(1)氏名表示権 実演家は、その実演の公衆への提供又は提示に際し、実演家名を表示するかしないか、また、表示するとすれば芸名を表示するか、実名を表示するか等を決定する権利を有します(著90条の2)。 例えば、映画に主演した俳優の氏名を表示せずに公表した場合には、氏名表示権の侵害になります。 ただし、実演家の利益を害さない場合や公正な慣行に反しないと認められる場合には、氏名表示権の侵害は成立しません。 (2)同一性保持権 実演家は、その実演の同一性を保持する権利を有し、自己の名誉又は声望を害するその実演の変更、切除その他の改変を受けないものとされています(著90条の3)。 例えば、映画に主演した俳優の氏名を表示せずに公表した場合には、氏名表示権の侵害になります。 ただし、実演の利用目的や態様に照らしやむをえないと認められる場合や公正な慣行に反しないと認められる場合には、同一性保持権の侵害は成立しません。
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著作権法は、著作者の権利のほか、実演家、レコード製作者、放送事業者、有線放送事業者の権利につき規定しています。
著作者の権利が著作物を創作する者に対して与えられる権利であるのに対して、実演家等の権利は、著作物を人々に伝達する者に与えられる権利です。
例えば、歌手の歌唱の場合、歌手は音楽を伝達しているだけであり、歌うことによって新たな著作物を創作しているわけではありません。しかし、歌手の歌い方によって聞き手の受け取り方が異なるように、歌唱には、著作物の創作に準じる創作行為があるといえます。このことは、レコード製作者、放送事業者、有線放送事業者の場合にも、同様にあてはまります。そこで、著作権法は、これらの者にも著作権法上の権利を認め、保護を図ることにしています。
※ 著作権法上は、実演家等の権利から、実演家人格権と報酬請求権を除いた、許諾権としての財産権を総称して「著作隣接権」と定義していますが、日常的には、「実演家等の権利」の意味で「著作隣接権」との語が用いられることも多いため、注意が必要です。
著作権は著作物を創作した時点で自動的に発生し、登録が権利の発生要件ではありません。ここが、登録することによって権利の発生する特許権や商標権等の相違点です。
1.実演家の権利
1)権利の対象-実演
著作権法2条1項3号は「実演」に関し、次のような定義規定を置いています。
【著作権法2条1項3号】
実演 著作物を、演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、又はその他の方法により演ずること(これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含む。)をいう。
[肯定例] 演奏、歌唱、演技、手品、物まね、腹話術など
[否定例] サッカー、体操競技などのスポーツ
2)権利の主体-実演家
著作権法2条1項4号は「実演家」に関し、次のような定義規定を置いています。
【著作権法2条1項4号】
実演家 俳優、舞踊家、演奏家、歌手その他実演を行なう者及び実演を指揮し、又は演出する者をいう。
3)権利の内容
実演家の権利は、(1)許諾権(第三者が許諾なく利用した場合、利用の差止を請求できる)としての著作隣接権、(2)報酬・二次的使用料請求権(第三者の無断利用に対しても差止請求は不可)、(3)実演家人格権に大別されます。また、(1)ないし(3)の権利はさらに多数の支分権に分かれます。
送信可能化権、譲渡権、貸与権
請求権
商業用レコードの貸与に係る報酬請求権
(1) 著作隣接権(許諾権)
(1)録音権・録画権
実演家は、その実演を録音し、又は録画する権利を専有することができます(著91条1項)。
例えば、実演をCDやMD、DVD等に録音、録画する場合には実演家の許諾が必要になります。
もっとも、実演家が映画の著作物に録音・録画することをいったん許諾した場合には、その映画の著作物の複製(映画のビデオ化等)については、実演家の録音・録画権は及ばなくなります(著91条2項、ワンチャンス主義)。この規定により、映画の著作物の二次利用の容易化が図られます。
※ 放送番組の二次利用の困難性 著作権法91条2項のワンチャンス主義は、実演家が「録音」「録画」の許諾をした場合にのみ適用されます。そのため、放送番組の出演契約において、単に「放送」の許諾のみしかなされていない場合には、ワンチャンス主義の適用はなく、二次利用に際し、出演する全実演家の許諾を取り直す必要が生じます。その結果、放送番組の二次利用がしにくいという問題が生じています。
(2)放送権・有線放送権
実演家は、その実演を放送し、又は有線放送する権利を専有することができます(著92条1項)。
例えば、実演をテレビやラジオで放送したり、有線放送する場合には実演家の許諾が必要になります。もっとも、放送の有線同時送信や許諾を得て録音・録画された実演の放送・有線放送については、実演家の放送権・有線放送権は及ばないとされています(著92条2項)。ただし、商業用レコードの放送の場合には、二次利用料の支払が必要となります(著95条1項)。
(3)送信可能化権
実演家は、その実演を送信可能化する権利を専有することができます(著92条の2)。
例えば、実演をインターネットにアップロードする場合には実演家の許諾が必要になります。
もっとも、実演家が映画の著作物に録音・録画することをいったん許諾した場合には、その映画の著作物を送信可能化する行為(映画のアップロード)について、実演家の録音・録画権は及ばなくなります(著92条の2第2項、ワンチャンス主義)。この規定により、映画の著作物の二次利用の容易化が図られます。
(4) 譲渡権
実演家は、その実演をその録音物又は録画物の譲渡により公衆に提供する権利を専有することができます(著95条の2)。 例えば、実演が録音されたCDを販売する場合には実演家の許諾が必要になります。
(5) 貸与権
実演家は、発売後1年が経過するまでの間、その実演をそれが録音されている商業用レコードの貸与により公衆に提供する権利を専有することができます(著95条の3第1項)。
例えば、実演が録音されたCDをレンタルする場合には実演家の許諾が必要になります。
貸与権は商業用レコードのみに及ぶ権利であり、ビデオのレンタルについては、実演家の貸与権は問題となりません。
なお、発売後1年を経過した商業用レコードについては貸与権は及びませんが、この場合も、相当な額の報酬の支払が必要となります(著95条1項)。
(2) 報酬・二次使用料請求権
(1)商業用レコードの放送・有線放送に係る二次使用料を受ける権利
実演が録音された商業用レコードが、放送や有線放送で利用された場合、実演家は、放送事業者、有線放送事業者から、二次使用料の支払いを受けることができます(著95条)。
(2) 商業用レコードの貸与に係る報酬請求権
実演が録音された商業用レコードが、発売後1年を経過した後でレンタル店で公衆に貸与された場合、実演家は、レンタル店に対し、相当な額の報酬の支払いを請求することができます(著95条の3第3項)。
(3) 実演家人格権
(1)氏名表示権
実演家は、その実演の公衆への提供又は提示に際し、実演家名を表示するかしないか、また、表示するとすれば芸名を表示するか、実名を表示するか等を決定する権利を有します(著90条の2)。 例えば、映画に主演した俳優の氏名を表示せずに公表した場合には、氏名表示権の侵害になります。 ただし、実演家の利益を害さない場合や公正な慣行に反しないと認められる場合には、氏名表示権の侵害は成立しません。
(2)同一性保持権
実演家は、その実演の同一性を保持する権利を有し、自己の名誉又は声望を害するその実演の変更、切除その他の改変を受けないものとされています(著90条の3)。 例えば、映画に主演した俳優の氏名を表示せずに公表した場合には、氏名表示権の侵害になります。 ただし、実演の利用目的や態様に照らしやむをえないと認められる場合や公正な慣行に反しないと認められる場合には、同一性保持権の侵害は成立しません。
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