特許侵害訴訟(特に日米比較を中心)について-(1)

  • 今回からは、知的財産に関連する訴訟や係争の問題についてお話していきましょう。 知的財産権という権利が存在すれば、必ず、これを侵害する行為が生れます。法律で権利が守られていたとしても、実際には、権利侵害に巻き込まれるケースが多くなっています。特にグローバル化を目指して海外の市場に進出することを意図する企業は増えてきております。この際には、必ずといっていいほど、海外のメガ企業の特許網にひっかかってしまいます。巨大な蜘蛛の糸に絡まれて死を待つばかりの瀕死な状態の企業も増加しております。

  • この課題では、まず、何はともあれ、侵害行為を発見した場合にはどうしたらよいか、又、反対に権利者から侵害であると警告を受けた場合どうしたらよいかが、皆様にとっては身近な問題と存じますので、警告状に関する問題提起およびその解決策についてご説明していきましょう。

    1) 訴訟手続に至るまでの流れ
    (1)
    特許権者が権利侵害の疑いのある製品を発見する
    (競合品、類似品の登場が契機となる場合が多い)
    (2)
    特許権者が当該製品等の特許権侵害の有無を調査する
    (社内で調査及び弁理士や弁護士に鑑定依頼を行うことが多い)
    (3)
    特許権者から非権利者に対し、口頭または書面による警告がなされる
    (侵害行為の差止めや損害賠償の請求がされることが多い)
    (4)
    非権利者から口頭又は書面による回答(回答書)がなされる
    (社内でも調査および弁理士や弁護士に鑑定依頼を行うことが望ましい)
    (5)
    双方で書面又は口頭により事実関係の確認や解決策の提案、協議、示談交渉が行われる(この過程で双方の主張が交わされ、議論が始まる)
    (6) 協議が決裂し、又は合意が得られず、特許権者又は非権利者から法的手続きがとられる
    2) 警告について
    上記の流れの中で、初めて権利者と侵害者の交渉が始まるきっかけを作る行為がこの警告をするという行為になります。そこで、警告を出す側の立場として注意すること、警告を受けた側で注意することを簡単に説明いたしましょう。
    ご相談を受けた事例で警告をする側のケースと警告を受けた側のケースについてご紹介してみましょう。

    *警告をする側
    当該会社(以下Xとします)は甘味料などを日本で製造し販売しているメーカーです。相手の中国企業(以下Yとします)は中国で製造した甘味料を日本の商社(以下販売業者とします)を通じて販売しようとしております。Xは当該甘味料(特許権の存続期間は満了しております)の用途特許を日本で所有しており、当該特許は、Xから甘味料を購入したユーザーが使用することになります。
    Yは販売業者に当該甘味料の用途をインターネットで宣伝させ、又、技術交流会で対象製品の販売宣伝をする際に用途をパンフレットに記載していました。

    →さて、この状況下において、警告を出す前に確認しておくべきことは何か、および第1発目の警告状の中では何を記載したらよいか?
    (1) 警告を出す前に確認しておくこ
    警告を出す相手は誰か、製造をしている中国企業か、日本で販売権を得ている販売業者か
    実際に販売業者が甘味料を用途別に販売しているのか(当該用途特許を使用するユーザーは、その業者によって特定できる)
    侵害対象特許の有効性の確認→本当に瑕疵はないか(警告を出した場合、警告を受けた側が対象特許の有効性などについて調査する可能性が強いため、逆に対象特許に瑕疵が存在すれば、特許自体が無効になるリスクを負うことになる)
    (2) 第1回目の警告状に何を記載すればよいか
    相手先は、日本における販売業者(表にたって販促活動を展開しようとしている)としてもよいでしょう。何故なら、当該販売業者と中国の製造業者との間における契約上の約束ごとは警告者にはわからないためです。
    警告する意図を明確に記載しましょう
    単に対象特許の存在を知らしめるだけに留めるか(販売を開始していない場合には、これからの商業活動を中止させる効果も期待できます。本件の場合には、まず、このレベルから始めるほうがよいでしょう)。
    具体的な警告を通告する。例えば、侵害品の差止めや損害賠償の請求を求めて、最終的には裁判までもっていく覚悟を連絡する(今回の場合には、まだ、販売しているかどうかの事実を掴んでいない段階ですので、このレベルの警告は早すぎますが、実際に販売を開始していて、権利者に具体的な損害が発生している場合には、販売を中止させるとともに、損害賠償の請求まで考える必要があります)。
    係争などはお互いの利益に反することが多いため、和解(つまり、ライセンス許諾等)での交渉の余地は残しておくのか
    (3) 警告状は必ず内容証明郵便で手配するようにしましょう。
    単なる書状だけでは、後日に相手方は受取っていないと主張する可能性があります。内容証明に配達証明をつけて手配すれば、後日、連絡の有無が争われる場合に、確たる証拠となり得ますので(つまり、警告状を送付することにより、到達した以後の侵害行為については、侵害者が故意による侵害行為であることを事実上推認させる証拠ができることになります。差止請求や損害賠償の請求では故意が要件になっていないため、余り大きな 意義はありませんが、悪質な侵害行為に対しては刑事処分を含めた対応を考える場合には意義が生じます)、この点は十分に注意して送信するように心がけてください。

    (4) 警告状に対する回答
    1ヶ月たっても回答がこない場合
    往々にして相手方から無視される場合が多いようです。もう少しこちらの出方を見守っているのか、社内で検討中なのか(当方の特許の有効性や侵害有無の評価などに時間をかけている可能性もありま す)、完全に無視しているのか、販売中止を検討しているのか(本件の場合には、具体的実施の形跡がないため、まだ販売は開始していない事情が考えられます)等いろいろなシチュエーションが考えられます。
    相手方の信用度調査が必要ですね。信用のおける企業なら、恐らく対応の検討を行っているはずですので、回答は遅れる可能性があります。この場合でもコンプライアンスを重んじる体質の企業なら、正式な回答はなくとも、「現在検討中なので、回答はもう少し時間が欲しい」といった趣旨のstop-gapが必ずきます。       
    厄介なのは、相手方が信用のおける企業かどうかの見極めが難しい場合です。この場合には、1ヶ月待っても返事がこない場合の対応としては、上記の警告状でどのレベルまでの記載をしたかによります。       
    例えば、
    単に対象特許を連絡しただけの場合には、侵害に対する当方の見解を具体的に説明し、それに対する相手方の反論を求めるのが、第2番めの警告状となります。
    係争準備までの具体的な対応を示して警告した場合には、今回は回答期限を限定し、それまでに何らの回答がない場合には、法的手段を講じる旨の最後通告をすることになります。
    和解交渉の余地を示唆した場合には、たとえ、回答がなくても、今度は面会の申し入れを行います。具体的に交渉期日の候補日を通知し、相手の回答を待つことになります。
          
    回答がきた場合
    i ) 侵害を認めた場合
    大体は面談の申し入れがきますので、当方としては、その際にどのような要件を提示するのか(差し止めだけか、損害賠償まで求めるか、ライセンス許諾を提示するか等)を検討し、面談の際に考え方を示す必要があります。

    ii) 侵害を認めない場合
    2回目は、当方の主張を具体的に説明する必要があります。ただ、認めない理由として、具体的な要素を説明してきた場合(クレーム範囲と侵害品の関連性、対象特許の瑕疵の指摘等)には、これに対する反論を明確に記載する必要があり、当方での準備内容の如何では時間を要する場合も考慮しておくべきですので、警告状を出した時点で、早急に対応の準備は整えておくことですね。

(この章続く)

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