-その(3) 秘密保持契約および共同研究開発契約について-(1)
その他の知的財産法解説:目次
- はじめに ―法務部門開設の案内およびその趣旨
- なぜ、書面による取り決めが必要になるのか(概説説明)
- 契約の必要性について -秘密保持契約-
- 契約の必要性について -共同研究(開発)契約-
- 契約の必要性について -オプション契約-
- 契約の必要性について -共同出願取扱契約-
- 契約の必要性について -下請契約と製造委託契約の違いについて-
- ライセンス契約(特許およびノウハウ)について -その(1)
- ライセンス契約(特許およびノウハウ)について -その(2)
- ライセンス契約(特許およびノウハウ)について -その(3)
- ライセンス契約及び共同研究契約と独占禁止法との関連について-その(1)
- ライセンス契約及び共同研究契約と独占禁止法との関連について-その(2)
- ライセンス契約及び共同研究契約と独占禁止法との関連について-その(3)
- 国際契約を締結するにあたって法制上の留意点-その(1) 米国における契約の概念
- -その(2) 技術移転に対する規制
- -その(3) 秘密保持契約および共同研究開発契約について-(1)
- -その(3) 秘密保持契約および共同研究開発契約について-(2)
- -その(4) ライセンス契約について-(1)
- -その(4) ライセンス契約について-(2)
- -その(4) ライセンス契約について-(3)
- -その(4) ライセンス契約について-(4)
- -その(4) ライセンス契約について-(5)
- -その(4) ライセンス契約について-(6)
- -その(4) ライセンス契約について-(7)
- -その(4) ライセンス契約について-(8)
- 特許侵害訴訟(特に日米比較を中心)について-(1)
- 特許侵害訴訟(特に日米比較を中心)について-(2)
- 特許侵害訴訟(特に日米比較を中心)について-(3)
- 不正競争防止法について-(1)
- 不正競争防止法について-(2)
- 著作権について
英文契約書には独特な言葉が使用されております。まず、これを理解しないと後で後悔することになります。すなわち、契約書では、ほとんど現在形は使用されず、「shall」、「will」、「agree to」という接頭的用語が動詞の前に使用されます。
通常の英語では、これらは、未来形を表す助動詞であり又は賛成するという動詞のイディオムです。しかしながら、契約等の法律文書では、全く趣旨が違ってきますので、これらを理解していないと大変なことになります。
まず、基礎的なこれらの用語が表す契約上の効果についてお話しします。
上記のようにちょっとした用語にも法的な効力の有無が隠されておりますので、理解とともに慣れることが先決と存じます。
よく、皆様から、秘密保持契約を締結するにあたって、先方から送付されてきた契約内容のご相談を受けますが、相手側が契約に慣れた企業であればある程、定型化された様式の契約に、こちら側の名称を記入するだけというものが圧倒的に多いのに驚かされます。このような契約書では、対象はどういう技術なのか特定されず、先方から開示を受ける秘密情報についても単に技術上、営業上の情報に対する秘密保持や目的外使用義務が課されております。しかも、契約期間の定めもなく、このままでは、対象が特定されない情報の義務を無期限に負うことになっております。秘密保持契約といっても、そのレベルにより、1)単に相手の技術の内容を確認する程度のもの、2)共同研究の前段階として、相手の技術および製品のフィージビリティ・スタディ(評価検討)を本格的に行うレベルのものとでは、自ずと対象とする情報の内容の特定および評価に必要な現品サンプルの提供の有無、評価結果の次のレベルへの発展の有無を明確に規定することに対する採否を判断することになります。
上記の条項は明確に規定すべきと存じます。英文契約では、上記の肝心な点を不明確にし、義務違反の場合の処置、裁判の管轄など、一般条項を詳細に規定し、英文契約に不慣れな側に脅威を与えております。契約案が送付されてきたら、臆することなく、おかしい点や明確にすべき点は堂々と主張するようにしましょう。また、反対に相手側に技術を開示するような場合には、当該秘密保持の段階では、なるべく大切な情報(特に、ノウハウ的価値のある技術など)は、例え、秘密保持契約で秘密保持義務を課しているとしても、開示するのは避け、もっと先のレベル(共同研究・開発やライセンス)まで延ばすように注意してください。
→各当事者が所有している技術の特定
→評価対象の明確化
→評価目的および達成目標の特定
つまり、両当事者がお互いに所有する技術を交換し、それを評価することにより何を達成しようとしているのかを契約上明確に特定する。
「X and Y foresee the possibility of collaboration in the development of and hence conduct the feasibility study on ○○○○system for the Compound」
→各当事者は何をどう評価検討するのか
→各当事者が相手方に開示・提供する技術および製品サンプルの特定
→発生する費用の分担はどのようにするのか
「The role of X under this Agreement are as follows:
1)
2)・・・・・
The role of Y under this Agreement are as follows:
1)
2)・・・・・ 」
当然に相手方から開示を受けた情報については秘密の義務を負うとともに、評価のために提供を受けた製品サンプルについては評価・検討以外の目的には使用しないという義務を負う(相手方に対しても同じ義務を課す→相互義務)。
評価の結果得られた技術情報は、全て両当事者の共有とする。この段階で特許レベルまでの発明が生じる可能性は余りないと考えられますが、技術の内容によっては、新たな発明が生じる場合もあります。その場合には、上記(1)および(2)で各当事者の所有技術および評価の分担が明確化されておりますので、当該発明が何をベースにどちらによってなされたかにより発明者および権利者が特定できますので、これに関しては、関連当事者の所有にします。
「Any technical information obtained as the result of the feasibility study carried out hereunder during the term of this Agreement shall be the joint property of the parties hereto.」
お互いの最終評価結果を受領した後一定期間(例えば1ヶ月)以内に両当事者は、評価結果について協議する。両当事者が合意する場合、両当事者が合意した課題について共同研究・開発に関する契約について誠実に交渉する。
「The parties hereto shall within thirty (30)days following the receipt by Y of the final report from X meet to discuss the results of the feasibility study conducted hereunder and use their reasonable best efforts to negotiate in good faith and agree on the collaborative development agreement of the ○○○○system of the Compound in the event that the parties mutually recognize that the development of such ○○○○system of the Compound is feasible taking into account the results of the feasibility study hereunder.」
その他の注意事項は上記にも述べたとおりです。
(この章続く)