ライセンス契約及び共同研究契約と独占禁止法との関連について-その(3)

  • 今回が本課題の最終となります。今度は、共同研究開発における独占禁止法との関連についてご説明していきましょう。皆様の中には、何で、共同研究開発契約が独禁法と関係あるのと思われる方もおられると存じますが、公正取引委員会では、共同研究開発契約においても、平成2年6月に、共同研究開発と独占禁止法に関する調査をし、その結果を踏まえて、やはり共同研究開発と独占禁止法とのかかわりについて、ガイドラインを作成することが賢明であるとの結論の下に、平成5年4月に「共同研究開発に関する独占禁止法上の指針」を公表しております。当該ガイドラインの中に公正取引委員会としての共同研究開発に関する考え方が示されております。

  • このガイドラインには、公正取引委員会としては、共同研究開発を一般的に問題視するのではなく、その中に多くの競争促進的な効果(リスク軽減、コスト軽減、期間の短縮、技術の相互補完等により研究開発活動がより効果的・効率的に行われ技術革新を促進する効果)を持つことを認めており、共同研究開発において競争制限的な効果が生じるおそれがある場合に限り独占禁止法上問題となるかどうかを検討するという立場をとっております。

  • 皆様の中には、共同研究開発を第三者と実施された経験をお持ちの方が多くおられると存じますが、例えば、大学の先生と企業との間で取り交わされた契約上でも、専門家がみれば、随分と企業側に有利な取り決め内容となっているものも多く見受けられます。また、企業間同士の契約でも力の優劣によって、随分一方的な条件を要求されている内容のものもあります。もし、内容的におかしいなと思われたら、本章のその(1)に述べました事前相談制度が共同研究開発契約においても適用されますので、是非、ご相談されることをお勧めします。

  • それでは、どのような制約条件が独占禁止法の違反に該当するのかをご説明しておきましょう。当該ガイドラインでは、主に、共同研究開発の共同化と、その実施の2点に焦点を絞って公正取引委員会の考え方を示しております。
1)共同研究開発の共同化
この場合は、大きな企業同士間での共同化による市場独占や競争秩序の撹乱(公正な競争を阻害等)が主に規制の対象となっております。(独占禁止法第3条及び第19条)
 
2)共同研究開発の実施に伴う取り決めについて
ガイドラインでは、共同研究開発に伴う取り決めを、(1)共同研究開発の実施に関する事項、(2)共同研究開発の成果である技術に関する事項、(3)共同研究開発の成果である技術を利用した製品に関する事項の三つに区分しております。
更に、当該3事項について、(1)原則として不公正な取り決めと認められない事項(白条項)、(2)不公正な取引方法に該当する恐れのある条項(灰色条項)、(3)不公正な取引方法に該当する恐れが強い条項(黒条項)に分けております。
 
実施に関する黒条項
 共同研究開発テーマ以外のテーマの研究開発を制限するような場合(独占禁止法第19条(及び第2条9項五号(優越的地位の乱用)又は一般指定第5項(共同行為における差別取扱)等)
ただし、全てが黒条項に該当するのではなく、下記のような場合には、該当しないとされていますので、ご注意ください。

i)

ii)

iii)
共同研究開発成果について争いが生じることを防止するため、又は、参加者を共同研究開発に専念させるために必要と認められる場合
共同研究開発のテーマと極めて密接に関連するテーマの第三者との共同研究開発を同研究開発期間中についてのみ制限する場合
共同研究開発終了後の合理的な期間に限って、共同研究開発のテーマと同一又は極めて密接に関連するテーマの第三者との共同開発を制限する場合
成果の取り扱いに関する黒条項 (独占禁止法第19条)
 
成果を利用した研究開発を制限する場合
成果の改良発明等を他の参加者へ譲渡する義務を課す場合又は他の参加者へ独占的に実施許諾する義務を課す場合

成果に基づく技術を利用した製品の取り扱いに関する条項(独占禁止法第19条)
 



成果に基づく製品の第三者への販売価格を制限する場合
成果に基づく製品の生産又は販売数量を制限する場合
成果に基づく製品の生産又は販売地域を制限する場合

  • 上記以外の制限的な条項については、やはり、その制限が著しく相手方に不利な拘束を課すような場合には、灰色条項か黒条項に該当することになるため、簡単に諦めるのではなく、必ず、公正取引委員会の相談窓口にご相談されるほうが賢明と存じます。
以 上 (この章完)

 

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