不正競争防止法による営業秘密の保護

不正競争防止法2条1項4号~9号は,営業秘密を不正な方法で取得したり、第三者に開示したり、利用したりする行為を禁止しています。

1.営業秘密とは?

営業秘密には、顧客名簿、販売マニュアル、仕入先リスト、財務データなどの営業上の情報のほか、製造技術、設計図、実験データ、研究レポート、図面などの技術上の情報が含まれます。そのため、不正競争防止法の規定によって、特許出願を行わなかった技術情報等についても一定の保護が図られることになります。

ここでいう営業秘密といえるためには,以下の要件が必要となります。

(1) 秘密として管理されていること(秘密管理性)
(2) 事業活動に有用な技術上または営業上の情報であること(有用性)
(3) 公然と知られていないこと(非公知性)

これらの要件のうち、(1)の秘密管理性の要件を満たすようにするためには、社内において、秘密情報の管理をきちんとしておく必要があります。例えば、文書管理規定を作成し、秘密情報の収納・保管・廃棄方法を規定したり、営業秘密の取扱者を限定しておくことが必要になります。さらに、その管理の方法が、第三者から見ても当該情報が秘密として管理されていることがある程度客観的に明らかである必要もあります。

2.保護の内容

不正競争防止法は、営業秘密を不正に取得し、これを使用する行為のほか、不正に取得された営業秘密を不正に開示する行為を不正競争行為として規定しています。具体的には以下の行為がこれにあたります。

(1) 技術上の秘密の保有者から窃取,詐欺,強迫,その他の不正な手段により営業秘密を取得する行為,及びその取得者本人が使用,開示する行為(4号)

(2) 不正取得行為があった事情を知りながら,又は知らないことに重過失がある場合で,営業秘密を取得する行為,及びその取得者本人が使用又は開示する行為(5号)

(3) 営業秘密を取得した時点では不正取得されたことを知らなかったが、後に,不正取得されたものであることを知った(又は重大な過失により知らなかった)にもかかわらず,その営業秘密を使用,開示する行為(6号)

(4) 保有者から提示された営業秘密を、不正競業その他の不正の利益を得る目的で,又はその保有者に損害を加える目的で,営業秘密を使用,開示する行為(7号)

(5) 7号に規定された不正開示による取得であること,又は不正開示行為が介在していることを知りながら又は重過失によって知らないで,営業秘密を取得する行為,及びその取得者本人が使用,開示する行為(8号)

(6) 営業秘密を取得した時点では7号に規定された不正開示行為があった(又は介在したこと)ことを知らなかったが,後に,不正開示によって得られたものあることを知ったにもかかわらず(または重大な過失によって知らないで),その営業秘密を使用,開示する行為(9号)

3.技術ノウハウを営業秘密として保護した場合の問題点

自社の技術情報を保護する方法としては、特許出願をする方法と、ノウハウ(営業秘密)として秘匿する方法が考えられますが、特許出願をした場合、特許権という独占権が与えられる反面、技術内容が公に公開されてしまうことになります。これに対し、技術情報を外部に一切公表せず、営業秘密として保護する場合、情報の漏洩を完全に防止できれば、第三者の模倣を有効に防げる場合があります。しかし、技術ノウハウを営業秘密として保護する場合、以下の点が問題となります。

(1) 他社の特許権侵害の危険性 社内秘密として実施していた技術につき、第三者が特許権を取得した場合、特許権侵害として訴えられる可能性があります。そのため、技術情報を営業秘密として保護しようとする場合、設計図面などを保管し、公証人役場での証明をとっておくなど、先使用権の立証のための資料を準備しておく必要があります。

(2) 立証の困難性 特許権侵害であれば、相手方の製品が自己の特許発明の技術的範囲に属することを立証すればよいのに対し、営業秘密の侵害については、第三者が自己の営業秘密を不正に取得したこと等を立証しなくてはならず、立証が困難な場合が多いといえます。

4.特許出願をするか、ノウハウとして秘匿するか?

一般に、他社での実施状況が把握できるものや競合企業の技術レベルが接近している場合には、特許出願をしたほうが有利であるといえます。これに対し、特許性がないもの、侵害行為の確認が困難なもの、一般性の薄いものについては、あえて特許出願をせず、ノウハウ(営業秘密)として秘匿することが有効な場合もあります。