2.共同発明の場合の注意点

1.共同発明とは

 実務上、2人以上の者が実質的に協力し合って発明を完成させる場合がありますが、この場合は共同発明として、特許を受ける権利はこれら発明者全員の共有となり、共有者全員でなければ特許出願することができません(特許法第38条)。

(1)共同発明者かどうかの判断
 共同発明とは、2人以上の者が実質的に協力して完成させた発明を言い、このような共同発明の場合における複数の発明者を共同発明者と言います。
 ここで、発明者とは、発明(創作行為)を現実に行った者(自然人)を意味し、単なる補助者、助言者、命令者及び資金提供者は発明者になり得ません。

 共同発明者かどうかについては、一般に、次の基準により決めるべきであるとされています。
[1] 共同発明者に該当しない場合
 発明は技術的思想の創作ですから、思想の創作自体に関与した者が共同発明者です。従って、思想の創作自体に関与しなかった者、例えば、単なる管理者、単なる補助者、単なる後援者・委託者等は、共同発明者ではありません。
 単なる管理者とは、部下の研究者に対して一般的管理をした者、例えば、具体的着想を示さずに単に通常のテーマを与えた者、又は発明の過程において単に一般的な助言や指導を与えた者を言います。
 単なる補助者とは、研究者の指示に従い、単にデータをまとめた者又は実験を行った者を言います。
 単なる後援者・委託者とは、発明者に資金を提供したり、設備利用の便宜を与えることにより、発明の完成を援助した者又は委託した者を言います。

[2] 共同発明者に該当する場合
 共同発明者かどうかは、発明の成立過程について、着想の提供(課題の提供又は課題解決の方向づけ)と着想の具体化との2段階に分け、各段階について、実質上の協力関係の有無を次のように判断します。
 提供された着想が新しい場合は、着想(提供)者は発明者です。ただし、着想者が着想を具体化することなく、そのままその着想を公表した場合は、その後、別人がその着想を具体化して発明を完成させたとしても、着想者は共同発明者となることはできません。着想者と着想を具体化した者との間には、一体的・連続的な協力関係がないからです。このような場合には、公知の着想を具体化して発明を完成させた者のみが、発明者となります。例えば、公知の着想に基づいて実験等を行って発明を完成に導いた者、公知の着想についてそれを具体化させ得る技術的手段を与えて発明を完成させた者等です。
 新着想を具体化した者は、その具体化が当業者にとって自明程度のことに属しない限り、共同発明者となります。

(2)共同発明についての特許を受ける権利、特許出願および特許権
[1] 特許を受ける権利
 発明者は、特許出願に発明者として掲載される権利を有すると共に、特許を受ける権利の最初の帰属者となります。発明が共同でなされたときは、共同者全員が発明者ですから、共同発明の場合、特許を受ける権利は、共同発明者の共有となります。
 特許を受ける権利が共有に係る場合、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡することができません(特許法第33条第3項)。特許を受ける権利の持分の移転を全く自由にすると、持分の譲渡がされて共有者が変わることにより、他の共有者の持分の価値も著しく違ってくる場合があるので、それを防ぐためです。
 また、特許を受ける権利が共有に係る場合、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その特許を受ける権利に基づいて取得すべき特許権について、仮専用実施権を設定し、又は他人に仮通常実施権を許諾することができません(特許法第33条第4項)。これは、実施権者によっては、他の共有者の権利が有名無実となるなど、他の共有者への影響が大きいからです。

[2] 特許出願
(a) 共同出願
 上記のように、i) 共同発明について共同発明者が特許を受ける権利を共有する場合の他に、ii) 2つの会社が共同研究した際に、各社の発明者から特許を受ける権利を譲り受けて両社が特許を受ける権利を共有する場合があります。
 特許を受ける権利が共有に係る場合、各共有者は、他の共有者と共同でなければ、特許出願をすることができません(特許法第38条)。
 特許法第38条に規定する共同出願に違反した場合は、拒絶査定の理由にされ(特許法第49条第2号)、たとえ特許になったとしても、特許無効の理由にされ(特許法第123条第1項第2号)、その特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者からその特許権の移転を請求されることになります(特許法第74条第1項)。

(b) 共同審判
 特許出願後に拒絶査定を受けて、拒絶査定に対する不服審判を請求する場合は、共同出願人全員が共同して請求しなければなりません(特許法第132条第3項)。
 共同出願人の一部の者が拒絶査定に対する不服審判を請求した場合は、不適法な審判の請求として、審決をもって却下されます(特許法第135条)。

[3] 共有に係る特許権
 共同出願に特許が付与されると、共有に係る特許を受ける権利は設定登録により共有特許権になります。また、特許権の一部移転があった場合にも、特許権は共有されます。特許権を共有するとは、一つの特許権を2者以上で共同して所有することです。
 特許権が共有に係るときは、特許法に次のような規定があります。
i) 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡し、又はその持分を目的として質権を設定することができません(特許法第73条第1項)。
ii) 各共有者は、契約で特段の定をした場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができます(同条第2項)。
iii) 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その特許権について専用実施権を設定し、又は他人に通常実施権を許諾することができません(同条第3項)。
 第1項及び第3項において、他の共有者の同意を得なければ、特許権の持分の譲渡や専用実施権の設定等を行うことができないとするのは、特許権の持分の譲渡を受けた者や実施権の設定を受けた者の資本力や技術力等によっては、他の共有者の持分価値が著しく変動する場合があるからです。
 第2項は、これに反する解釈をされないように、各共有者は自由に特許発明の実施をすることができることを、念のために規定しています。

 共有に係る特許権について、訂正審判を請求するときは、共有者の全員が共同して請求しなければなりません(特許法第132条第3項)。一方、他人の共有に係る特許権について、特許無効の審判を請求するときは、共有者の全員を被請求人として請求しなければなりません(特許法第132条第2項)。
 なお、共有に係る特許権が侵害された場合に、侵害行為の差止請求については、各共有者が共同で請求しなくても、共有者の一人が単独で請求することができると解され、損害賠償請求や不当利得返還請求については、各共有者が共同で請求しなくても、共有者の一人が単独で各人の持分に応じた額について請求することができると解されます。

2.他社との共同研究

 技術の多様化に伴い、自社のみでは人的制約、設備的制約等がある場合、他社、大学、公的研究機関等の技術との結合により、技術を相互補完することが望まれる場合等に、共同研究開発が行われます。
 その場合、共同研究契約書により、研究成果の配分や利害の調整を行い、将来の紛争の種を残さないように注意をすべきです。共同研究契約書では、例えば、研究の対象(テーマ)、役割の分担、費用負担、研究成果の取扱、持分、機密保持、産業財産権及びノウハウの取扱、製品化の要領、第三者との協力制限、契約期間等について定める必要があります。
 近年、大学と企業との共同研究が活発になってきており、この場合は、さらに注意すべき事項があります。

(1)特許を受ける権利の帰属
 企業の従業者が共同で発明した場合、特許を受ける権利は、原始的に発明者である従業者に共有となります。また、特許を受ける権利が共有である場合、特許を受ける権利を他人や会社に譲渡する際には、他の共有者の同意が必要です。
 ここで、共同で発明した従業者の所属する会社がそれぞれ異なる場合、例えば、A会社の従業者甲とB会社の従業者乙が共同で発明した場合は、特に注意が必要です。
 一般的に、従業者のなした発明は職務発明である場合が多く、その発明について特許を受ける権利をあらかじめ所属会社に譲渡する契約(予約承継)がなされている場合が多数を占めます。

 2015年に職務発明制度が改正される前は、予約承継であっても、譲渡であることに変わりはないため、共同発明であれば、予約承継について他の共同発明者の同意が必要でした。すなわち、上記の場合、甲はA会社に予約承継する旨の同意を乙にしてもらう必要があり、逆に乙もB会社に予約承継する旨の同意を甲にしてもらう必要があるので、権利の承継にかかる手続負担が課題でした。また、共同研究の途中で、従業者(共同発明者)の人事異動が発生した場合は、再度、同意を取り直す等、権利の承継に係る手続がより複雑化していました。
 2015年の職務発明制度の改正により、予約承継の場合には、従業者が職務発明を完成させた時から、その特許を受ける権利が使用者等に帰属する(原始使用者等帰属)ので、上記のような問題は解決されることになります。(以下のURLをクリックして、特許庁資料「職務発明制度の概要」第8頁をご参照ください。)
https://www.jpo.go.jp/support/startup/document/index/shokumuhatsumeiseido.pdf

 なお、2つの会社および2人の共同発明者の場合であれば話は比較的簡単ですが、実際には、数社にわたって多くの発明者が関わる場合があり、また、会社によっては予約承継を取り決めていない場合もあり得ます。そのような場合には契約や権利関係が錯綜しかねないので、あらかじめ契約関係を明確にしておく必要があります。

(2)特許発明の実施、特許発明の実施許諾
 特許権の共有者は、別段の定をしない限り、他の共有者の同意を得ないでその特許発明を実施できます(特許法第73条第2項)。
 共有の特許発明について第三者に実施許諾を行う場合は、他の共有者の同意が必要です(特許法第73条第3項)。この場合、通常、実施許諾によって得られる実施料は契約によって共有者に配分されますが、特別な契約がない場合は、持分に応じて配分することになると考えられます。

(3)不実施補償
 不実施補償とは、大学・公的研究機関と企業との共同研究で得られた特許発明を、その企業が実施する際に、特許権の共有者である大学等に実施料を支払うことを言います。
 たとえ、大学・公的研究機関と企業との共同で特許発明を完成したとしても、大学等は当該発明を実施することはありません。そこで、大学等は、共同発明の対価を不実施補償という名目で、特許発明を実施する企業から受け取ることが行われています。
 しかし、2003年の国立大学の法人化を契機に、企業は不実施補償に異を唱えることが多くなってきました。その背景に潜在的にある理由は、特許権の共有者は他の共有者の同意なく自由に実施できるのであり(特許法73条第2項)、いくら共有者(大学・公的研究機関)が実施をしないからといって、不実施補償を支払う必要があるとまでは認められないというものです。
 近年では、以下URLのように、「企業が大学等との共有特許発明を非独占的に実施する場合には、大学等は不実施補償を請求しない」という動きや、「共有特許発明を企業で実施した結果、利益に貢献した場合は、企業が大学等に実施料を支払う」という動きが出てきています。
https://www.aist.go.jp/aist_j/news/announce/pr20141030.html
https://sangakukan.jst.go.jp/journal/journal_contents/2007/12/articles/0712-03-2/0712-03-2_article.html

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