企業が管理するブランドとは、日常生活で我々が言うブランドとはやや意味することが異なります。我々は普段、「そのブランド(たとえば、アップル)が好き」といったように、ブランドという言葉を名前とほぼ同義のものとして考え用いています。しかし、企業が管理する対象であるブランドには、その名前はもちろん、マークやシンボル、キャラクター等の記号情報、さらにそれらから連想される意味が含まれています。ここからわかるように、企業が管理する対象としてのブランドは様々な要素から構成されています。具体的にブランドを校正する要素を挙げると、マークやシンボル、キャラクター、シングル、色彩、香り、意味という側面が重要視されています。 この意味的側面の重要性を強調したのは、ブランド研究の第一人者であるケヴィン・L・ケラー教授です。彼は、ブランドの強さは、消費者が有するブランドについての知識(ブランド知識)に規定されると説明しました。ブランド知識は、ブランド認知とブランド・イメージに別れます。ブランド認知とはブランドを知っているかどうかやブランドを思い出すことができるかどうかのことです。ブランド・イメージとはそのブランドから連想されるイメージ(意味)のことです。
ケラー教授によると、強いブランドとは、多くの消費者い知られており、豊かでユニークなイメージを有しているために、商品購買時に一番に思いついたり優先的に選択されやすいといった特徴を持っています。そして、ブランドが持続的競争優位を獲得するためには、その認知を強化していくことはもちろんですが、後者のイメージ(意味的側面)を豊かにしていくことが重要であると指摘しました。つまり、強いブランドを構築できるかどうかは、消費者がどれだけブランドの名前やマーク等から豊かでユニークなイメージを連想できるかにかかっているというわけです。強いブランドとしてよく取り上げられるのは、アップルやスターバックス、無印良品です。多くの消費者は、これらのロゴをみるだけで豊かでユニークなイメージを思い浮かべると思いますが、そのイメージこそがこれらのブランドの強みを生み出す核なのです。以下に、インターブランド社によるブランド価値の高い10社(2021年)を掲載しています。これらのブランドは「スマホと言えばアップル」や「検索=google(ググる)」といったように、そのカテゴリーで一番に思い浮かぶような認知度を獲得しています。また、それらのロゴを見るだけで様々なイメージが湧いてくると思います。その認知度の高さ、そして、湧いてくるイメージこそがブランドの強みだということをまず理解して下さい。 ブランド研究では、1990年代の後半頃からこういったブランドが有する意味の重要性を強調するようになってきました。その結果、ブランドを端的に表す表現として、ブランドとは「意味を蓄える器」や「記憶のペグ(帽子やコート等をかけられる杭)」であるといわれるようになりました。器やペグはブランドの名前等の記号情報、そこに蓄えられた/かけられた意味や記憶がブランドの意味を表しています。以上のように、ブランドとは、その名前等の記号情報だけではなく、それに付随する意味によっても構成されており、むしろそちらが重要だという認識が企業でも共有されています。
さて、ではなぜそういった意味が重要になるのでしょうか。これは、消費者視点と企業視点の双方から説明できます。まず、消費者視点からは、ブランドが有する意味は、消費者の情報処理の負担を低減させることを指摘できます。消費者はよく知っているブランドや、何度か利用して満足した経験のあるブランドを信頼する傾向があります。これまでの消費経験等から、そのブランドに対してポジティブな意味が形成され、「そのブランドなら間違いないだろう」という品質や機能を信頼するようになるためです。これを、ブランドが有する保証機能といいます。 さらに、ブランドがざまざまな意味を有するため、消費者はブランド間での差を識別することも可能となります。消費者は、機能や品質では客観的な差を認識できなかったとしても、イメージや思い入れによって差を認識することも少なくありません。これを識別機能といいます。 他にも、消費者は特定のブランドの商品を所有したり消費することで自らを表現することもあります。それは、消費者がブランドから様々な意味を想起するために可能となります。日常生活でもスターバックスのカップやMac(アップル)をinstagramにアップする様子をよく見かけます。ここでは、そういった機能を自己表現機能といいます。 企業はブランドにさまざまな意味付けをしていくことによって、保証機能や識別機能、自己表現機能を活かすことができます。そして、それらの機能があるために消費者は普段の買い物で何十分、何時間もいちいち悩んだりせずに、同じブランドを安心して継続購買したりするのです。もちろん、それらの機能は消費者のブランドへの愛着を高めることにも寄与し、「好きだから買う」といった継続購買も促します。 企業観点からはどうでしょうか。消費者が同じブランドを継続購買するということは、企業の利益に直結することは容易に理解できるでしょう。これまでの研究で、新規顧客を獲得するためにかかる費用は、既存顧客を維持するためにかかる費用よりも5倍近くかかることが明らかにされてます。さらに、積極的に継続購買してくれるような一部(2割)の消費者が企業の利益の8割を生み出すということも明らかにされています。そういったことを鑑みると、消費者の継続購買を促す強力なブランドづくりは、企業にとって極めて重要であることがわかります。また、消費者がブランドに惹かれていれば、そのブランドの商品を使用することによってより高い満足度を得られたり、同じブランド名が付いた新商品を購買する傾向があります。それは、価格競争の回避やブランド拡張、ライセンス供与による企業のさらなる成長につながるでしょう。
強いブランドは消費者の継続購買を促したりすることで、企業のさらなる成長に寄与します。すなわちそれは、企業にとってブランドが利益を生み出す資産であることを意味します。ブランドは単なる名前や商品ではないのです。この、ブランドが単なる名前や商品以上の存在であることを指摘したのがデビット・A・アーカー教授です。彼は、ブランドが有する資産的な側面を「ブランド・エクイティ」という概念によって説明し、それを「ブランドの名前やシンボルと結びつき、消費者に提供する価値を増大(減少)させる資産(負債)の集合」と規定しました。そして、ブランド・エクイティは5つの要素、(1)ブランド・ロイヤルティ、(2)ブランド連想、(3)ブランド認知、(4)知覚品質、(5)商標権や特許など、他の所有権のあるブランド資産から構成されると述べました。先のケラー教授は、これらの資産の源泉は、消費者の頭のなかにあるブランド知識に求めることができると指摘したわけです。
この概念が提唱される以前は、ブランドとは他の商品と区別するためにつけられた名前程度にしか考えられていませんでした。しかし、この概念が提唱されることによって、強いブランドを構築することの意義が企業の間で共有されるようになりました。このブランドを構築する活動こそがブランディングにほかなりません。マーケティングが価値ある商品を生み出し、それを消費者へ提供する活動だとすれば、ブランディングとは消費者の頭のなかに当該ブランドにとって魅力的なブランド知識の構造を作り出す活動のことです。こういった違いから、マーケティングの目標は売れる仕組みを作ることであり、ブランディングの目標は売れ続ける仕組みを作ることと表現することもあります。
ブランド・エクイティは企業のブランディングの結果でしかありません。では、企業はどうブランドを管理していけば良いのでしょうか。アーカー教授は、「ブランド・アイデンティティ」を明確にすることこそがその起点となると指摘します。ブランド・アイデンティティとは、当該ブランドの目標や理想像であり、企業が消費者に当該ブランドをどのように知覚して欲しいかを示したものです。 これらを企業が対外的に示したわかり易い例はキャッチコピーです。たとえば、「お、ねだん以上。(ニトリ)」はニトリが値段以上の価値を提供する、どちらかといえばコストパフォーマンスを重視していることを意味します。「会いにいけるアイドル(AKB48)」も、AKB48はテレビ画面越しに見る遠い存在ではなく、より身近な存在であることを示しているでしょう。実際、今でも秋葉原にある専用のコンサート会場では定期的にライブを行っているそうです。このブランド・アイデンティティを明確にしていくことは極めて困難です。なぜならブランド・アイデンティティは、企業が抱える商品郡や企業そのもののイメージ、ロゴやジングル等のさまざまなシンボルからも構成されているからです。企業は、それらに統一感をもたせていくことが求められています。
企業がブランド・アイデンティティを明確にしたとしても、消費者が有するブランド・イメージとは一致しないことが普通です。ブランド・コミュニケーションを通じてブランド・アイデンティティを伝えようとしても、他の企業のコミュニケーションを受けてそれが適切に伝わらなかったりすることもあれば、消費者自身の解釈も企業が完璧に管理することは不可能だからです。また、ブランドは企業が単独で構築するものではなく、消費者とともに構築するといった意識を有することも必要です。ブランドが有する価値の源泉は、消費者の頭のなかに有る知識であることを鑑みると、消費者のフィードバックを受けながら、消費者が有するブランド知識を修正するようにブランド・コミュニケーションを変更したり、アイデンテォイティ自体を修正していくことも求められるでしょう。アイデンティティを修正する際には、変えてはいけないブランドの核と時代や状況により修正していく周辺部分を分類していくことが重要です。
ブランド・コミュニケーションを行う際に忘れてはいけないのが、プロモーションのみがその手段ではないということです。商品そのものや価格、どういったお店で売られているかもブランド・イメージに影響を及ぼします。プレミアム感の有るブランドを作ろうとしたとしても、低価格での販売ばかりしていればそういったブランド構築は困難です。そこで企業は、消費者が当該ブランドと接触する場(コンタクト・ポイント)全体を管理し、当該ブランドから得られる経験をより豊かなものにしていくことが求められています。 消費者の購買行動は欲求を認識するところからはじまり、情報探策、購買前代替案評価、購買、消費、購買後評価、処分という流れで進みます。従来は、情報探索や購買前代替案評価、購買という購買に直接かかわるところばかりに注目してきました。しかし、強いブランドを構築するには、消費や処分といった購買後の行動まで幅広く管理していく必要があるのです。そこでの経験が次の欲求認識や購買前代替案評価に強く影響していくためです。さらに、それらが統一したブランド・イメージを伝えるようにしなければなりません。こういった経験全体を管理する考えを、ブランド・エクスペリエンスといいます。
消費者は、魅力的なブランドとの間に強い絆を構築することがあります。ブランド研究では、この絆をブランド・リレーションシップといいます。ブランド・リレーションシップは5段階でその強度を計測することができ、これを絆の5段階と呼びます。この考え方を用いれば、企業はどの程度の強度のブランド・リレーションシップを構築できているかを把握することができます。 第1は認知の段階です。もともと、消費者とブランドの間には関係が存在しておらず、当該ブランドを知っているかどうかも不明です。そこで、まず知ってもらうことが絆づくりの最初の段階になります。第2は、ブランドと自己のアイデンティティを一致させる段階です。この段階では、ブランドとの同一化を測定する必要があります。消費者が当該ブランドを知り、それを用いて自己を表現したいと望むようになれば絆はより強固になったと判断できます。第3は、関係性を築く段階です。これは、消費者がブランドに強く惹かれており、継続的に当該ブランドを購買することを意味します。この状態になると、消費者は企業とコミュニケーションを行うようになり、そこには関係性が生まれます。第4は、コミュニティを形成する段階です。自らと同じブランドを好むほかの消費者とコミュニケーションを行うようになり、そこで当該ブランドへの理解を深めたりして、これまで以上に当該ブランドに惹かれていきます。最後は、クチコミの段階です。コミュニティで知識を増やした消費者は、自らの利益にならないクチコミを献身的にしてくれます。そんな消費者とブランドとの間に結ばれる絆が企業の目標となります。ここで重要なのは、長期的な視点から消費者との関係性を育成していくという観点です。プレゼントキャンペーンのようなもので短期的なクチコミを増やすだけではブランディングが成功したというわけではありません。
強いブランドは、企業にさまざまな価値を生み出してくれます。ブランドは単なる名前や商品以外の存在であり、ブランドが有するそういった価値を我々はブランド・エクイティといいます。ブランド・エクイティの構築のために忘れてはならないのが、長期的な視点でブランドを育てていくということです。また、ブランドそのものが直接利益を生み出すわけではないということも理解しておかなければなりません。ブランドはあくまでも意味を蓄える器でしかありません。消費者が購買するのはブランド化された商品であってブランドそのものではありません。ブランドとともに商品を魅力的なものにしていくことが必須です。こういった点に注意しながら企業はブランドを構築していくことが求められています。
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特許
実用新案
意匠
商標
著作権
その他
2.リレーションシップ・マーケティングにおけるブランド論
1)ブランドとは?
企業が管理するブランドとは、日常生活で我々が言うブランドとはやや意味することが異なります。我々は普段、「そのブランド(たとえば、アップル)が好き」といったように、ブランドという言葉を名前とほぼ同義のものとして考え用いています。しかし、企業が管理する対象であるブランドには、その名前はもちろん、マークやシンボル、キャラクター等の記号情報、さらにそれらから連想される意味が含まれています。ここからわかるように、企業が管理する対象としてのブランドは様々な要素から構成されています。具体的にブランドを校正する要素を挙げると、マークやシンボル、キャラクター、シングル、色彩、香り、意味という側面が重要視されています。
この意味的側面の重要性を強調したのは、ブランド研究の第一人者であるケヴィン・L・ケラー教授です。彼は、ブランドの強さは、消費者が有するブランドについての知識(ブランド知識)に規定されると説明しました。ブランド知識は、ブランド認知とブランド・イメージに別れます。ブランド認知とはブランドを知っているかどうかやブランドを思い出すことができるかどうかのことです。ブランド・イメージとはそのブランドから連想されるイメージ(意味)のことです。
ケラー教授によると、強いブランドとは、多くの消費者い知られており、豊かでユニークなイメージを有しているために、商品購買時に一番に思いついたり優先的に選択されやすいといった特徴を持っています。そして、ブランドが持続的競争優位を獲得するためには、その認知を強化していくことはもちろんですが、後者のイメージ(意味的側面)を豊かにしていくことが重要であると指摘しました。つまり、強いブランドを構築できるかどうかは、消費者がどれだけブランドの名前やマーク等から豊かでユニークなイメージを連想できるかにかかっているというわけです。強いブランドとしてよく取り上げられるのは、アップルやスターバックス、無印良品です。多くの消費者は、これらのロゴをみるだけで豊かでユニークなイメージを思い浮かべると思いますが、そのイメージこそがこれらのブランドの強みを生み出す核なのです。以下に、インターブランド社によるブランド価値の高い10社(2021年)を掲載しています。これらのブランドは「スマホと言えばアップル」や「検索=google(ググる)」といったように、そのカテゴリーで一番に思い浮かぶような認知度を獲得しています。また、それらのロゴを見るだけで様々なイメージが湧いてくると思います。その認知度の高さ、そして、湧いてくるイメージこそがブランドの強みだということをまず理解して下さい。
ブランド研究では、1990年代の後半頃からこういったブランドが有する意味の重要性を強調するようになってきました。その結果、ブランドを端的に表す表現として、ブランドとは「意味を蓄える器」や「記憶のペグ(帽子やコート等をかけられる杭)」であるといわれるようになりました。器やペグはブランドの名前等の記号情報、そこに蓄えられた/かけられた意味や記憶がブランドの意味を表しています。以上のように、ブランドとは、その名前等の記号情報だけではなく、それに付随する意味によっても構成されており、むしろそちらが重要だという認識が企業でも共有されています。
2)消費者にとってのブランドと企業にとってのブランド
さて、ではなぜそういった意味が重要になるのでしょうか。これは、消費者視点と企業視点の双方から説明できます。まず、消費者視点からは、ブランドが有する意味は、消費者の情報処理の負担を低減させることを指摘できます。消費者はよく知っているブランドや、何度か利用して満足した経験のあるブランドを信頼する傾向があります。これまでの消費経験等から、そのブランドに対してポジティブな意味が形成され、「そのブランドなら間違いないだろう」という品質や機能を信頼するようになるためです。これを、ブランドが有する保証機能といいます。
さらに、ブランドがざまざまな意味を有するため、消費者はブランド間での差を識別することも可能となります。消費者は、機能や品質では客観的な差を認識できなかったとしても、イメージや思い入れによって差を認識することも少なくありません。これを識別機能といいます。
他にも、消費者は特定のブランドの商品を所有したり消費することで自らを表現することもあります。それは、消費者がブランドから様々な意味を想起するために可能となります。日常生活でもスターバックスのカップやMac(アップル)をinstagramにアップする様子をよく見かけます。ここでは、そういった機能を自己表現機能といいます。
企業はブランドにさまざまな意味付けをしていくことによって、保証機能や識別機能、自己表現機能を活かすことができます。そして、それらの機能があるために消費者は普段の買い物で何十分、何時間もいちいち悩んだりせずに、同じブランドを安心して継続購買したりするのです。もちろん、それらの機能は消費者のブランドへの愛着を高めることにも寄与し、「好きだから買う」といった継続購買も促します。
企業観点からはどうでしょうか。消費者が同じブランドを継続購買するということは、企業の利益に直結することは容易に理解できるでしょう。これまでの研究で、新規顧客を獲得するためにかかる費用は、既存顧客を維持するためにかかる費用よりも5倍近くかかることが明らかにされてます。さらに、積極的に継続購買してくれるような一部(2割)の消費者が企業の利益の8割を生み出すということも明らかにされています。そういったことを鑑みると、消費者の継続購買を促す強力なブランドづくりは、企業にとって極めて重要であることがわかります。また、消費者がブランドに惹かれていれば、そのブランドの商品を使用することによってより高い満足度を得られたり、同じブランド名が付いた新商品を購買する傾向があります。それは、価格競争の回避やブランド拡張、ライセンス供与による企業のさらなる成長につながるでしょう。
3)ブランド・エクイティ
強いブランドは消費者の継続購買を促したりすることで、企業のさらなる成長に寄与します。すなわちそれは、企業にとってブランドが利益を生み出す資産であることを意味します。ブランドは単なる名前や商品ではないのです。この、ブランドが単なる名前や商品以上の存在であることを指摘したのがデビット・A・アーカー教授です。彼は、ブランドが有する資産的な側面を「ブランド・エクイティ」という概念によって説明し、それを「ブランドの名前やシンボルと結びつき、消費者に提供する価値を増大(減少)させる資産(負債)の集合」と規定しました。そして、ブランド・エクイティは5つの要素、(1)ブランド・ロイヤルティ、(2)ブランド連想、(3)ブランド認知、(4)知覚品質、(5)商標権や特許など、他の所有権のあるブランド資産から構成されると述べました。先のケラー教授は、これらの資産の源泉は、消費者の頭のなかにあるブランド知識に求めることができると指摘したわけです。
この概念が提唱される以前は、ブランドとは他の商品と区別するためにつけられた名前程度にしか考えられていませんでした。しかし、この概念が提唱されることによって、強いブランドを構築することの意義が企業の間で共有されるようになりました。このブランドを構築する活動こそがブランディングにほかなりません。マーケティングが価値ある商品を生み出し、それを消費者へ提供する活動だとすれば、ブランディングとは消費者の頭のなかに当該ブランドにとって魅力的なブランド知識の構造を作り出す活動のことです。こういった違いから、マーケティングの目標は売れる仕組みを作ることであり、ブランディングの目標は売れ続ける仕組みを作ることと表現することもあります。
4)ブランド・アイデンティティ
ブランド・エクイティは企業のブランディングの結果でしかありません。では、企業はどうブランドを管理していけば良いのでしょうか。アーカー教授は、「ブランド・アイデンティティ」を明確にすることこそがその起点となると指摘します。ブランド・アイデンティティとは、当該ブランドの目標や理想像であり、企業が消費者に当該ブランドをどのように知覚して欲しいかを示したものです。
これらを企業が対外的に示したわかり易い例はキャッチコピーです。たとえば、「お、ねだん以上。(ニトリ)」はニトリが値段以上の価値を提供する、どちらかといえばコストパフォーマンスを重視していることを意味します。「会いにいけるアイドル(AKB48)」も、AKB48はテレビ画面越しに見る遠い存在ではなく、より身近な存在であることを示しているでしょう。実際、今でも秋葉原にある専用のコンサート会場では定期的にライブを行っているそうです。このブランド・アイデンティティを明確にしていくことは極めて困難です。なぜならブランド・アイデンティティは、企業が抱える商品郡や企業そのもののイメージ、ロゴやジングル等のさまざまなシンボルからも構成されているからです。企業は、それらに統一感をもたせていくことが求められています。
5)ブランド・アイデンティティとブランドイメージの懸隔
企業がブランド・アイデンティティを明確にしたとしても、消費者が有するブランド・イメージとは一致しないことが普通です。ブランド・コミュニケーションを通じてブランド・アイデンティティを伝えようとしても、他の企業のコミュニケーションを受けてそれが適切に伝わらなかったりすることもあれば、消費者自身の解釈も企業が完璧に管理することは不可能だからです。また、ブランドは企業が単独で構築するものではなく、消費者とともに構築するといった意識を有することも必要です。ブランドが有する価値の源泉は、消費者の頭のなかに有る知識であることを鑑みると、消費者のフィードバックを受けながら、消費者が有するブランド知識を修正するようにブランド・コミュニケーションを変更したり、アイデンテォイティ自体を修正していくことも求められるでしょう。アイデンティティを修正する際には、変えてはいけないブランドの核と時代や状況により修正していく周辺部分を分類していくことが重要です。
6)ブランド・エクスペリエンス
ブランド・コミュニケーションを行う際に忘れてはいけないのが、プロモーションのみがその手段ではないということです。商品そのものや価格、どういったお店で売られているかもブランド・イメージに影響を及ぼします。プレミアム感の有るブランドを作ろうとしたとしても、低価格での販売ばかりしていればそういったブランド構築は困難です。そこで企業は、消費者が当該ブランドと接触する場(コンタクト・ポイント)全体を管理し、当該ブランドから得られる経験をより豊かなものにしていくことが求められています。
消費者の購買行動は欲求を認識するところからはじまり、情報探策、購買前代替案評価、購買、消費、購買後評価、処分という流れで進みます。従来は、情報探索や購買前代替案評価、購買という購買に直接かかわるところばかりに注目してきました。しかし、強いブランドを構築するには、消費や処分といった購買後の行動まで幅広く管理していく必要があるのです。そこでの経験が次の欲求認識や購買前代替案評価に強く影響していくためです。さらに、それらが統一したブランド・イメージを伝えるようにしなければなりません。こういった経験全体を管理する考えを、ブランド・エクスペリエンスといいます。
7)ブランド・リレーションシップ
消費者は、魅力的なブランドとの間に強い絆を構築することがあります。ブランド研究では、この絆をブランド・リレーションシップといいます。ブランド・リレーションシップは5段階でその強度を計測することができ、これを絆の5段階と呼びます。この考え方を用いれば、企業はどの程度の強度のブランド・リレーションシップを構築できているかを把握することができます。
第1は認知の段階です。もともと、消費者とブランドの間には関係が存在しておらず、当該ブランドを知っているかどうかも不明です。そこで、まず知ってもらうことが絆づくりの最初の段階になります。第2は、ブランドと自己のアイデンティティを一致させる段階です。この段階では、ブランドとの同一化を測定する必要があります。消費者が当該ブランドを知り、それを用いて自己を表現したいと望むようになれば絆はより強固になったと判断できます。第3は、関係性を築く段階です。これは、消費者がブランドに強く惹かれており、継続的に当該ブランドを購買することを意味します。この状態になると、消費者は企業とコミュニケーションを行うようになり、そこには関係性が生まれます。第4は、コミュニティを形成する段階です。自らと同じブランドを好むほかの消費者とコミュニケーションを行うようになり、そこで当該ブランドへの理解を深めたりして、これまで以上に当該ブランドに惹かれていきます。最後は、クチコミの段階です。コミュニティで知識を増やした消費者は、自らの利益にならないクチコミを献身的にしてくれます。そんな消費者とブランドとの間に結ばれる絆が企業の目標となります。ここで重要なのは、長期的な視点から消費者との関係性を育成していくという観点です。プレゼントキャンペーンのようなもので短期的なクチコミを増やすだけではブランディングが成功したというわけではありません。
8)まとめ
強いブランドは、企業にさまざまな価値を生み出してくれます。ブランドは単なる名前や商品以外の存在であり、ブランドが有するそういった価値を我々はブランド・エクイティといいます。ブランド・エクイティの構築のために忘れてはならないのが、長期的な視点でブランドを育てていくということです。また、ブランドそのものが直接利益を生み出すわけではないということも理解しておかなければなりません。ブランドはあくまでも意味を蓄える器でしかありません。消費者が購買するのはブランド化された商品であってブランドそのものではありません。ブランドとともに商品を魅力的なものにしていくことが必須です。こういった点に注意しながら企業はブランドを構築していくことが求められています。
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