【日本】知財調停制度のご紹介
2022年06月
2019年10月1日より、東京地裁と大阪地裁において、知的財産権に関する調停手続の運用(以下「知財調停」)が開始されました。知財調停の利用により、知財紛争の早期解決が可能となる場合もありますので、改めて、知財調停の概要や特色等について、ご紹介させていただきます。
1. 知財調停の概要
知財調停は、知的財産権をめぐる紛争について、専門家で構成された調停委員会の助言や見解を得て、当事者同士の話合いによる、簡易・迅速な解決を図る手続です。調停での合意事項は、判決と同⼀の効⼒があり、強制執⾏も可能です。
2.知財調停の特色
(1) 柔軟性
知財調停では、解決したい紛争を当事者が設定することができます。また、調停の申⽴書には、紛争の内容や過去の交渉経緯等を記載することができ、知財訴訟の訴状と比べて柔軟な記載が可能です。
さらに、必ずしも、調停による和解合意で終了する必要はなく、調停委員会の助言等を受けた後に、当事者間の自主的交渉に戻ることや訴訟を提起することも可能であるなど、紛争の解決方法においても、柔軟な対応が可能です。
(2) 迅速性
原則として、3回程度の期日内に調停委員会が口頭で見解を示すことにより、知財訴訟に比べて、短期間での紛争解決が可能となります。
調停委員会の見解には、争点についての心証のほか、立証の困難度や事案の複雑性に鑑みて、訴訟又は仮処分による解決に適している等の意見が含まれます。
(3) 専門性
調停委員会は、知的財産権部の裁判官、知財事件についての経験が豊富な弁護⼠・弁理⼠等で構成されています。また、特許権に関する紛争など、技術的事項が問題となる事案については、裁判所調査官が関与することもあり、訴訟等と遜⾊のない審理が⾏われます。
(4) 非公開性
知財訴訟の場合は、紛争の存在や口頭弁論期日等が公開されますので、最終的に和解により訴訟を取り下げたとしても、紛争が起こっていることを競合他社等に知られてしまう可能性があります。
一方で、知財調停は紛争の存在やその他の記録等が公開されることはありませんので、紛争の存在を他者に知られることなく解決することが可能です。
3.知財調停に適した事案
知財調停の対象となる事件は、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、回路配置利用権等に係る紛争であり、基本的には知的財産権に関する訴訟と同じです。
その中でも、知財調停に適した事案とは、当事者間の交渉中に生じた紛争であり、争点が過度に複雑でないものや、交渉において争点が特定されており、当事者双方が話合いによる解決を希望している事案が挙げられます。
具体例として、東京地方裁判所のウェブサイトには、以下の事例が記載されています。
1.商標の類否に関する紛争事例
2.商標の先使用権の有無に関する紛争事例
3.著作権侵害の有無に関する紛争事例
4.知的財産権の侵害による損害額に争いがある事例
5.営業秘密の不正取得等の有無に関する紛争事例
6.形態模倣の有無に関する紛争事例
7.特許権侵害の有無に関する紛争事例
(ただし、争点がシンプルであるものや交渉等を通じて争点が特定されている事案等)
8.特許権の帰属に関する紛争事例
9.ライセンス料に関する紛争事例
知財調停の詳細につきましては、以下の、東京地方裁判所のウェブサイトをご参照ください。
https://www.courts.go.jp/tokyo/saiban/l3/Vcms3_00000618.html