【日本】特許法の出願公開の特例に関する措置等の基本指針‐閣議決定

2023年05月

経済安全保障推進法(正式名称:「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律」)が、2022年5月11日の参院本会議で可決・成立し、同年5月18日に公布されました。
経済安全保障推進法は①供給網(サプライチェーン)の強化②基幹インフラの安全確保③官民による先端技術開発④特許の非公開の4本柱で構成されています。
詳細につきましては弊所知財トピックス2022年9月掲載分をご参照下さい。
https://www.saegusa-pat.co.jp/topics/11935/

4本の柱の1つである、特許の非公開に関しまして、2023年4月28日にその基本指針が閣議決定されました。

(基本指針の正式名称:「特許法の出願公開の特例に関する措置、同法第三十六条第一項の規定による特許出願に係る明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明に係る情報の適正管理その他公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明に係る情報の流出を防止するための措置に関する基本指針」)

1.基本的な考え方
日本国特許法は、発明公開の代償として特許権という独占排他権を付与するとしており、原則として出願から1年6ヶ月後にはすべての出願について、その内容が公開されます。しかし、特許出願に係る明細書等に、「公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明」が記載されている場合は、例外として、「保全指定」という手続により、出願公開、特許査定及び拒絶査定といった特許手続を留保するとともに、その間、公開を含む発明の内容の開示全般やそれと同様の結果を招くおそれのある発明の実施を原則として禁止し、かつ、特許出願の取下げによる離脱も禁止されることとなりました。
一方で、これまで安全保障上の理由で特許出願を自重していた発明について、安全保障上の懸念なく特許出願人として先願の地位の確保が可能となり、発明のモチベーション向上につながることが期待されます。

2.非公開の対象となる発明
非公開の対象となる発明の技術的類型は以下の通りです。

①我が国の安全保障の在り方に多大な影響を与え得る先端技術
その新しさゆえ、用いる者や用い方によって、国家及び国民の安全に対する重大な脅威となり得る技術がこれに該当します。
例えば、ゲーム・チェンジャーと呼ばれる将来の戦闘様相を一変させかねない武器に用いられ得る先端技術等が挙げられます。

②我が国の国民生活や経済活動に甚大な被害を生じさせる手段となり得る技術
その威力の大きさゆえ、我が国に対して用いられれば深刻な被害を防ぐことが容易でない技術がこれに該当します。
例えば、大量破壊兵器への転用が可能な核技術等が挙げられます。

3.保全審査
保全審査は、特許庁における第一審査と内閣府における第二審査の、二段階審査により行われます。
特許庁長官は、国際特許分類又はこれに準じて細分化して定めた基準に照らし、明細書等に、「公開されると国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明」が含まれると認めた場合、その出願書類を内閣総理大臣に送付します(第一審査)。これにより、保全審査が開始されます。
内閣総理大臣は、公開により、国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれの程度や保全指定した場合の産業発達に及ぶ影響その他の事情(不可要件)を勘案し、保全指定をしようとする場合、その旨を出願人に通知します(第二審査)。この通知を受け、出願人は、特許出願を維持するか取下げるかの判断をします。特許出願が維持され、保全指定がなされた場合、出願人は、一定の期間、発明の実施や外国への出願等についての制限を受け、違反があった場合は罰則の対象にもなり得ます。

尚、先端技術は日進月歩で変わるものであることに鑑み、非公開の対象となる発明の技術分野については、適宜見直しが行われます。

基本方針の詳細につきましては、内閣府の以下URLをご参照ください。
https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/doc/kihonshishin4.pdf