【日本】知的財産高等裁判所の統計データより-令和4年の傾向

2024年08月

知的財産高等裁判所 (知財高裁) は、ウエブサイトにて、知的財産権関係民事事件や審決取消訴訟の受件数、平均審理期間、および特許権の侵害に関する訴訟における統計等のデータを公表しています。その要点を以下にまとめました。

1. 平成30~令和4年の知的財産権関係民事事件の新受・既済件数及び平均審理期間
(1) 知財高裁での統計は次の通りです。
https://www.ip.courts.go.jp/vc-files/ip/2023/j-kousoshin.pdf

年次 新受
(件)
既済
(件)
平均審理期間
(月)
平成30年 92 85 7.7
令和元年 85 88 7.0
令和2年 69 65 9.0
令和3年 103 86 7.0
令和4年 126 122 9.2

(2) 全国地裁第一審と全国高裁控訴審の統計は次の通りです。
https://www.ip.courts.go.jp/vc-files/ip/2023/j-zenkokuchisai.pdf
https://www.ip.courts.go.jp/vc-files/ip/2023/j-zenkokukousaikousoshin.pdf

  年次 新受
(件)
既済
(件)
平均審理期間
(月)
全国地裁
第一審
平成30年 495 532 12.3
令和元年 511 549 14.9
令和2年 494 420 14.6
令和3年 617 524 15.2
令和4年 557 688 15.2
全国高裁
控訴審
平成30年 126 108 7.3
令和元年 130 138 7.0
令和2年 84 87 8.6
令和3年 121 103 6.9
令和4年 165 153 8.2

2. 審決取消訴訟の新受・既済件数及び平均審理期間の統計は次の通りです。
https://www.ip.courts.go.jp/vc-files/ip/2023/j-shinketutorikeshi.pdf

年次 新受
(件)
既済
(件)
平均審理期間
(月)
平成30年 183 218 9.3
令和元年 174 166 8.6
令和2年 152 159 9.6
令和3年 165 175 9.8
令和4年 133 148 9.3

知的財産権関係民事事件の新受・既済件数 (知財高裁、全国地裁第一審、全国高裁控訴審) 及び審決取消訴訟の新受・既済件数は、令和2年にコロナ渦の影響により大きく落ち込んだ後、令和3年はいずれも令和2年の件数を上回りました。令和4年は、全国地裁第一審(既存)、全国高裁控訴審(新受・既存)において、令和3年の件数を上回りましたが、全国地裁第一審(新受)、審決取消訴訟(新受・既済)において令和3年の件数を下回りました。知的財産権関係民事事件の平均審理期間は、令和3年より顕著に長くなりました。

3. 特許権の侵害に関する訴訟における統計(東京地裁・大阪地裁)
https://www.ip.courts.go.jp/vc-files/ip/2023/2022_sintoukei_H26-r4.pdf
以下の統計は、東京地方裁判所及び大阪地方裁判所の知的財産権専門部が作成した特許権の侵害に関する訴訟の統計情報を、最高裁判所事務総局行政局が取りまとめたものであり、暫定値です。各数値は、平成26年から令和4年の数値を合算したものです。

(1)判決により終局した件数:519件

内訳 件数
棄却 330件
却下 15件
債務不存在確認認容 17件
認容 154件
債務不存在確認棄却 3件

※認容には一部認容を含む。
※債務不存在確認棄却には一部棄却を含む。
※債務不存在確認棄却は、平成29年からの数値である。平成26年から28年までの債務不存在確認棄却は、棄却に含まれる。

(2)和解により終局した件数: 226件

内訳 件数
差止給付条項・金銭給付条項あり 76
差止給付条項のみあり 22
金銭給付条項のみあり 83
差止給付条項・金銭給付条項なし 45

上記 (1) 及び (2) の表より、平成26~令和4年に、判決又は和解により終局したケースは合計745件あり、そのうち519件(約69.7%)が判決で終局し、226件(約30.3%)が和解により終局しています。判決に至ったケースのうち、認容判決は154件 (約30%)であり、和解のうち、181件 (約80%) において、差止及び/又は金銭給付が認められました。つまり、侵害訴訟全体の約45%(=(154+181)/745)において、特許権者の訴えが、何らかの形で認められました。

(3)判決で認容された金額

金額 件数
1円以上100万円未満 22
100万円以上1000万円未満 18
1000万円以上5000万円未満 34
5000万円以上1億円未満 11
1億円以上 35

*附帯請求及び訴訟費用に関する金額は含まない。

近年、判決で1億円以上の損害額が容認される件数が増加しています。(平成28年までの累計は6件、平成30年までの累計は14件、令和3年までの累計は30件でした。)

(4)和解において支払うことが約された金額

金額 件数
1円以上100万円未満 18
100万円以上1000万円未満 56
1000万円以上5000万円未満 38
5000万円以上1億円未満 15
1億円以上 29

*訴訟費用及び和解費用に関する金額は含まない。

和解において支払うことが約された金額も近年増加しており、1億円以上の支払額が約された件数は、平成28年までの累計では10件、平成30年までの累計では14件、令和3年までの累計は25件でした。

(5)無効の抗弁の有無・無効の抗弁に対する判断

種別 特許権の数 割合
無効の抗弁なし 186件 25%
無効の抗弁あり・判断なし 276件 37%
無効の抗弁あり・特許有効判断 143件 19%
無効の抗弁あり・特許無効判断 146件 19%

*判決により終局した事件について、各事件において主張された特許権の数を計上している。例えば、1件の特許権侵害訴訟事件で2つの特許権が主張された場合は2件と数えた上で、各特許権について無効の抗弁の有無と無効の抗弁に対する判断(特許有効判断又は特許無効判断)を計上している。

特許侵害訴訟の約75%において、無効の抗弁が主張され、約19%において、特許無効の判断がなされました。