【シンガポール】グレースピリオドの適用対象を拡大・特許法及び審査ガイドライン改正
2017年12月
2017年10月30日、シンガポール改正特許法及び審査ガイドラインが発効しました。今回の改正目的は、特許の質を向上させると共に特許制度をユーザー・フレンドリーにすることにあるとされています。
1.特許法の主な改正点
(1) 新規性喪失の例外適用対象の拡大
旧法において、新規性喪失の例外規定は、国際博覧会における展示、不法な開示等、限られた開示の態様にのみ適用されていました。
今回の改正により、直接的か間接的かを問わず、出願日 (優先日ではない) 前12ヶ月以内になされた発明者自身によるあらゆる開示の態様が新たに適用対象となります。新規性喪失の例外の適用期間(いわゆるグレースピリオド)は、旧法と同じく12ヶ月です。
適用対象:2017年10月30日より後に開示され、当該開示から12ヶ月以内に特許出願された発明。
手続:出願と同時の手続は不要ですが、調査及び審査の請求時、審査請求時、見解書への応答時、又は審査報告書若しくは調査及び審査報告書の再審理(review)の請求時に、法廷宣言書(statutory declaration)又は宣誓供述書(affidavit)の形式の書面による証拠と共に新規性喪失例外適用を登録官に請求する必要があります。
(2) 外国ルート(補充審査ルート)の廃止
現在選択可能となっている外国ルート(対応する外国出願又は国際出願での調査及び審査の最終結果に基づいて補充審査を行うルート)が、2020年1月1日に廃止されます。
その結果、2020年1月1日以降の特許出願の審査ルートとしては、シンガポール知的財産庁(IPOS)の実体審査を受けるルート、即ち、現地ルート*1又は混合ルート*2のいずれかを選択することになります。
2020年1月1日以降の特許出願とは、出願日が2020年1月1日以降であるシンガポール国内出願、2020年1月1日以降の国際出願日を有するシンガポール国内段階移行出願、2020年1月1日以降に提出された分割出願を指します。
なお、外国ルートは、出願日が2020年1月1日より前であれば、引き続き利用することができます。
*1 現地ルートでは、IPOSが調査及び審査を行います。
*2 混合ルートでは、日本、米国、EPO (英語出願) 等の所定官庁になされた対応出願の調査の最終結果又は対応PCT出願の国際段階における調査の最終結果に基づき、IPOSが審査を行います。
2.審査ガイドラインの主な改正点
(1) 発見と発明との区別の明確化
自然界に既に存在していた微生物や物質を見つけ出した場合、そのことは発見なので、それらを単離又は精製したものは発明ではないとみなされます。しかしながら、そのような単離又は精製された物質や微生物に新たな用途が見いだされた場合は、当該新たな用途については特許請求することができます。
(2) 無効であることが明らかなクレームの付与後訂正
シンガポール特許法第84条(3)において、特許明細書の訂正は、当該訂正が(a)新規事項を追加する場合及び(b)特許の保護範囲を拡大する場合は認められない旨規定されています。
今回の審査ガイドラインの改正では、無効であることが明らかなクレームを訂正しようとする付与後訂正に関して、審査官は、上記(a)及び(b)の要件を考慮することなく、拒絶してもよいとされました(ガイドライン7.36)。
この改正は、最近のシンガポール上訴裁判所(Court of Appeal)の判決(Warner-Lambert Company LLC v Novartis (Singapore) Pte Ltd [2017] SGCA 45)の判示に基づくものです。この判決では、セルフ・アセスメント制度の下で治療法(シンガポール特許法第16条により産業上利用可能ではない)について付与された特許をスイスタイプ・ユース・クレームに変更しようとする訂正に関して、特許が明らかに無効であると共にその無効性が特許権者に起因している場合、当該訂正は、そもそも当初から特許保護されていないものを有効にしようとするものであるから、拒絶されるべきであると判示されました。
(3) 調査・審査ルート変更の柔軟化
① 審査報告書、調査及び審査報告書又は補充審査報告書が発行される前であれば、出願人はいつでも、審査ルートの変更が可能となりました。改正前は、所定の期間(見解書の発行から見解書に対する応答書の提出まで)のみ、審査ルートの変更が可能でした。
② 調査報告受領後に、審査報告を所定期間内に請求しない場合は、当該出願は放棄されたものと扱われるようになります。
(4) 補充審査の範囲拡大
従来、外国ルートにおける補充審査においては、審査官は、特定の要件(サポート、公序良俗、新規事項、ダブルパテント等)に限り、拒絶理由を通知することが可能でしたが、今回の改正により、2017年10月30日より、外国ルートにおける補充審査の範囲が拡大され、審査官が、クレームの主題が発明を構成しないと考える場合も、拒絶理由を述べることが可能となりました。これは、各ルートでの審査の質を均一化するためです。