【日本】知的財産高等裁判所の統計データ更新、近年の侵害訴訟
2018年02月
知的財産高等裁判所 (知財高裁) は、ウエブサイトにて、知的財産権関係民事事件の受件数、平均審理期間、判決と和解の分析等のデータを更新しました。当事務所でこれらデータの要点をまとめました。より詳しくは、下記の各項目の標題の直後に記載のURLを参照下さい。
1.平成26~28年の知的財産権関係民事事件の新受・既済件数及び平均審理期間
(1)知財高裁での統計は次の通りです。http://www.ip.courts.go.jp/vcms_lf/2017_N_stat01.pdf
年次 (平成) | 新受 (件) | 既済 (件) | 平均審理期間 (月) |
26年 | 138 | 111 | 7.1 |
27年 | 137 | 162 | 7.8 |
28年 | 118 | 129 | 8.3 |
平成28年の知的財産権関係民事事件(知財高裁控訴審)の新受・既済件数は、前年より減少し、それぞれ、118件、129件でした。一方、平均審理期間は、平成26年から漸増傾向にあり、平成28年は8.3月でした。
(2) 全国地裁第一審と全国高裁控訴審の統計は次の通りです。
http://www.ip.courts.go.jp/vcms_lf/2017_N_stat03.pdf
http://www.ip.courts.go.jp/vcms_lf/2017_N_stat04.pdf
| 年次 (平成) | 新受 (件) | 既済 (件) | 平均審理期間 (月) |
全国地裁 第一審 | 26年 | 550 | 596 | 15.1 |
27年 | 534 | 535 | 14.1 | |
28年 | 504 | 545 | 13.3 | |
全国高裁 控訴審 | 26年 | 169 | 149 | 7.6 |
27年 | 161 | 193 | 7.6 | |
28年 | 141 | 151 | 7.8 |
新受件数は、平成26年、27年及び28年のいずれも、全地裁で500件余であり、全高裁で160件前後ですが、全地裁及び全高裁ともに漸減傾向にあります。
2.知的財産権関係民事事件の種類別 新受・既済件数割合
平成28年における統計は次の通りです。http://www.ip.courts.go.jp/vcms_lf/10_8syo.pdf
種類 | 全国地方裁判所 | 全国高等裁判所 | ||
新受 (%) | 既済 (%) | 新受 (%) | 既済 (%) | |
特許権 | 28.2 | 32.3 | 44.0 | 37.7 |
実用新案権 | 0.6 | 0.4 | 2.1 | 1.3 |
意匠権 | 4.2 | 1.7 | 0.0 | 2.6 |
商標権 | 15.5 | 18.2 | 9.9 | 13.2 |
著作権 | 25.4 | 23.1 | 22.0 | 25.2 |
プログラム著作権 | 2.2 | 2.6 | 2.8 | 4.0 |
不正競争防止法 | 23.2 | 20.2 | 16.3 | 12.6 |
商法その他 | 0.8 | 1.7 | 2.8 | 3.3 |
*小数点以下第2位を四捨五入。したがって、合計が100と一致しない場合有り。
上記表より明らかなように、知的財産権関係民事事件の種類別では、地裁(新受及び既済)及び高裁(新受)については、特許権、著作権、不正競争防止法、商標権の順になっており、高裁(既済)については、特許権、著作権、商標権、不正競争防止法の順になっています。
3.特許権の侵害に関する訴訟における統計(東京地裁・大阪地裁)http://www.ip.courts.go.jp/vcms_lf/2017_sintoukei_H26-28.pdf
以下の統計は、東京地方裁判所及び大阪地方裁判所の知的財産権専門部が作成した特許権の侵害に関する訴訟の統計情報を、最高裁判所事務総局行政局が取りまとめたものであり、暫定値です。各数値は、平成26年から平成28年の数値を合算したものです。
(1)判決により終局した件数: 193件
内訳 | 件数 |
棄却 | 134 |
却下 | 7 |
債務不存在確認認容 | 5 |
認容 | 47 |
*認容には一部認容を含む。
*棄却には債務不存在確認訴訟の棄却を含む。
(2)和解により終局した件数: 101件
内訳 | 件数 |
差止給付条項・金銭給付条項あり | 27 |
差止給付条項のみあり | 9 |
金銭給付条項のみあり | 44 |
差止給付条項・金銭給付条項なし | 21 |
上記 (1) 及び (2) の表より、平成26~28年に、判決又は和解により終局したケースは合計294件あり、そのうち193件(約66%)が判決で終局し、101件(約34%)が和解により終局しています。判決に至ったケースのうち、認容判決は47件 (約24%)であり、和解のうち、80件 (約79%) において、差止及び/又は金銭給付が認められました。つまり、侵害訴訟全体の約43%(=(47+80)/294)において、特許権者の訴えが、何らかの形で認められました。
(3)判決で認容された金額
金額 | 件数 |
1円以上100万円未満 | 12 |
100万円以上1000万円未満 | 5 |
1000万円以上5000万円未満 | 11 |
5000万円以上1億円未満 | 5 |
1億円以上 | 6 |
*附帯請求及び訴訟費用に関する金額は含まない。
(4)和解において支払うことが約された金額
金額 | 件数 |
1円以上100万円未満 | 6 |
100万円以上1000万円未満 | 30 |
1000万円以上5000万円未満 | 17 |
5000万円以上1億円未満 | 8 |
1億円以上 | 10 |
*訴訟費用及び和解費用に関する金額は含まない。
(5)無効の抗弁の有無・無効の抗弁に対する判断
種別 | 特許権の数 |
無効の抗弁なし | 88件 |
無効の抗弁あり・判断なし | 143件 |
無効の抗弁あり・特許有効判断 | 44件 |
無効の抗弁あり・特許無効判断 | 56件 |
*判決により終局した事件について、各事件において主張された特許権の数を計上している。例えば、1件の特許権侵害訴訟事件で2つの特許権が主張された場合は2件と数えた上で、各特許権について無効の抗弁の有無と無効の抗弁に対する判断(特許有効判断又は特許無効判断)を計上している。
特許侵害訴訟の約3/4において、無効の抗弁が主張され、無効の抗弁が主張されたケースの約1/4において、特許無効の判断がなされました。