【米国】米国特許商標庁(USPTO)、特許審判部(PTAB)でのクレーム解釈基準に関する規則改定案を公表
2018年08月
USPTOは、2018年5月9日付け官報(Federal Register)において、PTABで適用されるクレーム解釈の基準を、連邦地方裁判所や国際貿易委員会(ITC)で採用されている基準と一致させる規則改定案を公表しました。
1.2つの異なるクレーム解釈の基準(BRI基準とPhillips基準)
(1) PTABは、現在、特許の有効性を争う手続である当事者系レビュー(Inter Partes Review: IPR)、付与後レビュー(Post-Grant Review: PGR)、ビジネス方法特許に関する暫定措置(Transitional Program for Covered Business Method: CBM)において、「最も広い合理的解釈」(Broadest Reasonable Interpretation: BRI基準)に従ってクレームを解釈しています。BRI基準は、特許審査段階でも採用されている基準であり、クレームを明細書の記載に照らして合理的な範囲で可能な限り広く解釈するものです。
(2) 一方、特許権侵害訴訟の場面では、裁判所やITCは、Phillips基準に従ってクレームを解釈しています。Philips 基準では、クレームの文言は、明細書の記載、審査経過等を参酌して、当業者にとって通常かつ慣用的な意味(ordinary and customary meaning)を有すると解釈されます。
2.現在の問題点
(1) BRI基準でクレームを解釈した場合には、Phillips基準でクレームを解釈した場合に比べて、クレームの文言が広く解釈される傾向があるため、より広い先行技術が含まれてしまい、結果としてクレームの特許性が否定される可能性が高くなります。
(2) そのため、Phillips基準を採用する連邦地方裁判所で有効とされた特許が、BRI基準を採用するPTABで無効となったケースが、複数報告されています。
3.今後の展望
(1) 規則改定案がこのまま確定するか否かは、現時点ではまだ分かりません。仮にPTABでのクレーム解釈基準が改定案の通りに変更されると、PTABでの特許の有効性を争う手続において、現状に比べてクレームが狭く解釈され、その結果として特許は無効になり難くなることが予想されます。つまり、特許権者に有利になる可能性があります。
(2) また、改定案には、先行する民事訴訟やITCでの手続きにおいて、クレーム中の用語について解釈がなされている場合は、その解釈を考慮に入れるという内容も含まれています。
(3) PTABにおけるクレーム解釈と裁判所やITCにおけるクレーム解釈との整合性を高めることにより、司法手続きの効率化や訴訟経済の負担軽減が期待されます。
(編集者注:USPTOは、2018年10月11日付け官報において、PTABでのクレーム解釈基準をPhillps基準に変更する改正規則を公表しました。改正規則は、2018年11月13日以降に申請されたIPR、PGR、CBMに適用されます。)