【シンガポール】最高裁が均等論を否定-英国の判例を踏襲せず

2018年11月

2018年4月6日、シンガポール最高裁は、Lee Tat Cheng v Maka GPS Technologies Pte Ltd事件において、均等論を否定する判決を下しました。

これに先立ち、英国最高裁は、2017年7月12日に、Actavis v Eli Lilly事件 (以下、Actavis事件) において、初めて均等論を認める画期的な判決を下していました。この英国の判決に関しましては、弊所知財トピックスで、2017年10月にお伝えしています(以下のURLをクリックしてご覧下さい)。
https://www.saegusa-pat.co.jp/topics/4419/

今回のシンガポール最高裁の判決は、2017年の英国の判例を踏襲しませんでした。

1.シンガポールにおける英国の影響力
シンガポールでは、1994年に特許法が制定されましたが、その内容は、シンガポールの歴史的背景から、英国の影響を大きく受けたものとなっています。また、英国裁判所の判決は、シンガポールの裁判所に対して拘束力はないものの、大きな影響力を有しています。

このような状況において、英国における均等論を認める判決が、シンガポールでの判決にどのような影響を与えるのかが、注目されていました。

2.Lee Tat Cheng v Maka GPS Technologies Pte Ltd事件の概要
Lee Tat Chengは記録機能付き自動車搭載カメラの特許権者であり、Maka GPS Technologies 社の製品が当該特許権を侵害しているとして訴えを提起しました。しかし、第一審では、Maka GPS Technologies社の製品は、当該特許の構成要素のうちの主要な3つの特徴を有していないとして、訴えが退けられました。

シンガポールでは、クレームを解釈する際、Purposive Approach(合目的的アプローチ)を採用しています。Purposive Approachとは、クレーム文言の厳密な解釈をベースとして、特許権者が出願時に意図した目的論的な解釈を適用する考え方です。

第一審の判決の後、従来Purposive Approachを採用していた英国で均等論を認める最高裁判決が下されました。これを受けて、Lee Tat Chengは、シンガポールでも均等論を認めるべきであると主張し、控訴していました。

3.シンガポール最高裁の判決
シンガポール最高裁は、2018年4月6日、英国最高裁のActavis事件でのアプローチはシンガポールの特許法に合致しないとして、Lee Tat Chengの訴えを退けました。その主要な理由として、Actavis事件のアプローチによると、特許権による保護範囲が、Purposive Approachで解釈したクレームの範囲を超えてしまう点、さらには、特許権者は自らが選んだクレームを構成する文言に拘束されるべきである点を挙げています。

そして、シンガポール最高裁は、特許権者を公正に保護しつつ、第三者に不測の不利益を及ぼさない程度の明確性を保つためには、クレームの解釈にはPurposive Approachを採用すべきである、との見解を示しました。これにより、シンガポールの裁判所は、今後もPurposive Approachに則ったクレーム解釈を行うと思われます。